随想 空即空(連載3) 正宗白鳥恐るべし(2)

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随想 空即空(連載3)

正宗白鳥恐るべし(2)

 白鳥は語る。引用は『小林秀雄対話集』(講談社文芸文庫 二〇〇五年五月)に拠る。

 

  文学って、それは何か知らんけどな、僕はまあ、ヤソなんかに入ったこともあったが、僕は文学なんかどうでもいい。人間の生きる悩み、どうして生きるか。この世に人類というものが発生した苦労だな。そういうようなところに、いつも惹かれるんだな。それたからドストエフスキイなんかも言うわけだけども、そういう意味で藤村を第一とするんだ。藤村は小説はヘタだけども、いかにして生きるか、どうかして生きたいということをよく呟いている。それで一生懸命に生きようとしている。あれは救いのない生涯を終った人だけどな。何か、つらいというものをしみじみと見て、人に知れない悩みを持ってた人のように思えるんたな。そういうところに共鳴するんですよ。文学なんていうものは、第二義のもので……。(52)

 

 ――僕は子供の時分から西洋崇拝ですよ。(中略)翻訳的人物だね。翻訳人です。ところが、争われないもので、いくら翻訳したって、日本人は日本人だな。僕は青年時代に、キリスト教に入ったけども、僕の根底には仏教がある。それは仕方がない。人間いくつになったって、日本人が西洋人になる筈はない。けども、僕は終始一貫、西洋崇拝といってもいい。(59~60)

 

 もう一カ所、引用しておこう。

 

 正宗 僕なんか、いつも、自分で心酔するとか、何か意味を認める者を、一人で見つけたらそいつをどこまでも研究すればいい、ということを思うけどそいつは見つからない。見つからないというより、見つけないんだけど。キミはドストエフスキイを……。

 小林 ええ、やろうと思っているんです。

 正宗 それは一生かかってやるような大きなものだからな。――一生かかってやって、最後に、つまらんということになるかも知らんけどな。(笑声)

 小林 そう言っちまっちゃ……。あなたはすぐ身も蓋もないところに話を持って行く。話のつぎ穂がないですよ。(笑声)(77)

 

 この対談は昭和二十三年(一九四八)に行われている。わたしは昭和二十四年生まれで今年七十三歳、白鳥は一八七九年生まれであるから対談時六十九歳ということになる。

 対談なので大ざっぱなことしか分からないが、白鳥が言わんとすることは分かる。ドストエフスキーにとって文学は人間の神秘を解くことであったが、くだけた風に言えば要するに「人間とは何か」を徹底して追究することであった。だから白鳥の言わんとすることは、ドストエフスキーと同じである。ただしドストエフスキーは白鳥のように「僕は文学なんかどうでもいい」とは言わない。ドストエフスキーにとって文学は神に立ち向かう人間探求と直結しているので、文学創造はかけがえのない仕事である。

    白鳥がなぜことさら「文学などどうでもいい」と言っているのかわからないが、しかしわたしはこういった物言いが嫌いではない。白鳥が文学よりキリスト教に重きをおいていたことの一つの証でもあろう。ここには白鳥の屈折した思いを感じる。西洋崇拝者で、青年期にキリスト教に入信した翻訳人間が、しかし「僕の根底には仏教がある」と言い切っている。しかも白鳥は「人間いくつになったって、日本人が西洋人になる筈はない」と言いながら、最後にはキリスト教徒として息を引き取っている。ここには大いなる問題が潜んでいて軽々しい言い方は控えようと思うが、それにしても事実はどうだったのかという疑問は残る。死ぬ前に自分の確固たる意志でキリスト教に再び入信したのか。それとも死後、そのように配慮した者があったのか。

 今、手元に何の資料もないので確かなことは言えないが、明治生まれの一人の日本の小説家が、「文学などどうでもいい」と対談の席で公言しながら、しかし筆を折ることはせず、キリスト教から一度は離れて「僕の根底には仏教がある」と言って、最後にはキリスト教に帰るというのは、なんとも面白い運命である。こんな面白い矛盾の人生を生きた白鳥の小説や評論を特に読んでみようとは思わないが、彼の人生は検証してみたい気持ちにさせられる。しかし、白鳥の人生を探るには、結局彼の「どうでもいい」文学にあたらなければならないとすれば、それも面倒なことだ。

 小林秀雄ドストエフスキーの文学以上に、ドストエフスキーの実生活に関心を抱いた批評家と言えるが、白鳥に対しても彼が自分で言う「どうでもいい」文学よりも、白鳥の実生活や人柄、思想に関心を抱いていたのだろう。それにしてもこの対談で白鳥のキリスト教に対する具体的な思い、入信と背信の問題に関して何ら取り上げられてはいない。おそらく訊かれても、白鳥が口を割ることはなかったとは思うが。

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