帯状疱疹後神経痛と共に読むドストエフスキー(連載3) 師匠と弟子

近況報告

 

退院後の2016年に書いた原稿を読み直している。ひとつは「苦悶と求道の哲人・松原寛を巡る断想」で、これは百枚ぐらいの分量。来年早々刊行予定の『ドストエフスキー曼陀羅──松原寛&ドストエフスキー』 に収録の予定。四年ほど前に書いたものだが、実は書いたことすら失念していた。別にボケているわけではないが、今現在書いている原稿に没頭していると何年か前に書いたものを忘れてしまうのである。いずれにせよ、原稿を読み返すことになると、引用文献に当たらなければならない。つい先日も柳宗悦の『信と美』を探し回ったが見つからず、幸いアマゾンで安く出品されていたので早速申し込んだ。ところが申し込んでしばらくして、この本を発見した。わたしがいつも横になっている正面に書棚があってそこに本が積み重ねてあるのだが、その上にすまし顔で乗っていた。さて、これですめば、わざわざここに書くこともなかったのだが、実は今日の午後十二時過ぎから二時間ほど、小室直樹の『日本人のための宗教原論』を探し続けた。が、一向に姿を現さない。その代わり、ずっと探していた本がひょっこり現れたりした。とにかく探している本が、わたしをからかっているかのように隠れ続けている。部屋は埃まみれになるし、食事もとらなければならないのであきらめることにした。本棚にきちんと整理して置いておけば、本探しに苦労することはないだろうが、今わたしが寝起きしているマンションの一室には本を詰めた段ボールが50箱以上積み上げられ、本棚には二重に本が入れられている。床には本が至る所に積み上げられているので、当然のこととして本探しはいつも手間暇かかることになる。仕方がないので、今回も小室本をヤフオクで入札することにした。入札しながら、「また入札した後に本が見つかったりするんだよな」などと思いながら、タブレットで入力を済ませた直後、まさに一秒もたたないうちに『日本人のための宗教原論』の背表紙が目に入ってきた。予想通り、いったいどうしてこんなことが続くのか、不思議といえば不思議である。気を取り直して『デカメロン』を読んだ。この作品はドストエフスキー文学並みに面白い。

 

帯状疱疹後神経痛と共に読むドストエフスキー(連載3)

師匠と弟子

清水正

 わたしは当時、岩波文庫版『福音書』を読んでいて、イエスの弟子たちに対する苛立ちがよくわかった。わたしは福音書に書かれたイエスと違って奇跡など何一つ起こさなかったが、彼の苛立ちは確かにわたしのものでもあった。イエスは弟子たちを自分で選んでいる。選ばれた弟子たちは、なぜ自分を選んだのかイエスに聞かないし、イエスもまた説明しない。わたしは今までの人生で、私について来なさい、などと誰にも言われたことがないので、イエスに声をかけられた弟子たちの気持ちはわからない。

 それにしても面白いのは、イエスが弟子にした者でイエスを理解している者が一人もいなかったことである。こういったイエスと弟子たちの関係性をわたしはかつて実存の異時性と名付けた。物理的には同一時空間に生きていながら、彼らはイエスと同じステージに立つことができないでいる。もちろんイエスは自分と弟子たちの間にあるこの溝をよく心得てはいる。が、それでもやはり、弟子たちがあまりにもとんちんかんな受け答えしかできないときに、苛立ちを押さえることができないのである。

 マルコ福音書から、とりあえずイエスが起こした奇跡をすべて削除すれば、人間イエスの裸像は鮮明に浮き彫りになる。イエスが起こした奇跡を抜きにして人間イエスを語ることはできないと見なす者もあるだろうが、わたしはいかなる奇跡も起こさない、無力で惨めな人間イエスに関心がある。

 わたしは、「今、ここにわたしが存在していること自体」が奇跡だと思っているので、病人を治したり、一切れのパンを何千人分のパンに変えたりすることを特記すべき奇跡とは思わない。今、スマホで魔術の動画を立ち上げれば、〈奇跡〉は限りなく目にすることができる。自然科学的な知識に則ればまさに奇跡としか思えない不思議が次々と行われている。現代人がこれら数々の〈奇跡〉に驚いても、その驚きの内実は〈奇跡〉そのものに対してというよりも、マジシャンの天才的な才能に対してである。観客の誰もが〈奇跡〉に合理的説明ができることを承知している。もしそうでなければパニックが起きる。マジシャンも観客も、〈奇跡〉の説明可能を前提にしてショーを楽しんでいる。

 イエスはなぜ彼を少しも理解できない者たちを弟子にしたのであろう。否、そもそもなぜイエスは弟子を求めたのであろう。いったいイエスは何をしようとしていたのであろうか。

 

清水正への講演依頼、清水正の著作の購読申込、課題レポートなどは下記のメールにご連絡ください。
shimizumasashi20@gmail.com

 

ドストエフスキー文学に関心のあるひとはぜひご覧ください。

清水正先生大勤労感謝祭」の記念講演会の録画です。

https://www.youtube.com/watch?v=_a6TPEBWvmw&t=1s

 

www.youtube.com

 

 「池田大作の『人間革命』を語る──ドストエフスキー文学との関連において──」

動画「清水正チャンネル」で観ることができます。

https://www.youtube.com/watch?v=bKlpsJTBPhc

 

f:id:shimizumasashi:20181228105251j:plain

 清水正の著作はアマゾンまたはヤフオクで購読してください。https://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208

 

(人気ブログランキングに参加しています。よろしければクリックお願いします)

これを観ると清水正ドストエフスキー論の神髄の一端がうかがえます。日芸文芸学科の専門科目「文芸批評論」の平成二十七年度の授業より録画したものです。是非ごらんください。

ドストエフスキー『罪と罰』における死と復活のドラマ(2015/11/17)【清水正チャンネル】 - YouTube

 

 https://www.youtube.com/watch?v=KuHtXhOqA5g&t=901s

https://www.youtube.com/watch?v=b7TWOEW1yV4