インドネシア訪問(9)

インドネシア訪問(9)
インドネシア大学大学院日本地域研究科の図書室などを見学した後、広大な大学敷地内を歩いて丘の上に建築された巨大な図書館を訪問することになった。カウンターで待つこと十分、図書館を案内してくれるエティさんが現れた。スーシーさんの通訳で図書館内をじっくり見学することができた。三階から中央の広場を見下ろすと、遠くに人工湖が望める。広場には女子学生が百人近く集まって読書をしたり会話を楽しんでいる。広場では音楽会や劇公演なども行われるそうである。あまりにも女子学生の数が多かったので、スーシーさんに聞くと、ちょうどお昼の礼拝の時間で男子学生は礼拝所に行っているということであった。パソコン室も広大、書架スペースも広大、とにかく何もかもスケールが大きかった。日本語文献が蒐集されている図書室にも案内されたが、どういうわけか日本語の本は一冊(『仏印への途』六興商会出版部 1941)しか見あたらなかった。図書館が完成したのが2011年10月で、未だ運び込まれた書籍が整理されていないという説明であったが、中国語、韓国語の書籍は書架に納められていた。現在、漢字や日本語を読める職員がいないということで、きちんと整理されるまではそうとう年数がかかるということであった。まったく未整理で大半の本は紐でくくられたまま本棚におかれた状態なので、どのような本が集められているか、その全貌が明らかになるのは数年先のことになりそうだ。スーシーさんは真剣な面持ちで、日本の優秀な学生がボランティアで本の整理をしてくれないだろうかと提案していた。この提案にすぐに反応したのが山下聖美さんで、一か月くらいなら書庫にこもって整理にあたってもいいようなことを口にしていた。研究心旺盛な彼女の行動力にはいつも感服する。


スーシーさんがわたしを呼ぶので行ってみると、そこに中国語で書かれたロシア語文法の本があった。この図書室は調査に値する、貴重な文献が眠っているような気がしてきた。


私は国立インドネシア大学の図書館にロシア文学の本がどれくらいあるのか関心があったので、そのコーナーに案内してもらうことにした。とにかく広大な図書館なのでロシア文学コーナーにたどり着くのに十分ほどかかった。ようやく見つけたコーナーにロシア語ドストエフスキー全集のうちの一冊『永遠の夫・未成年』があった。ドストエフスキー本はこの一冊かぎり、後はチェーホフの作品が数冊、ほかの作家も系統的に集められてはいなかった。要するにロシア文学関係の本はほとんどなく、新しい本は一冊もなかった。日本の知識人は明治以来絶え間なくロシア文学を愛好してきたが、どうやらインドネシアではロシア文学は興味の外にあるという印象を持った。
丘の上に建つ巨大な図書館


図書館に入ってすぐ、頭上に目をやると、世界各国語で「読む」の文字が飛び込んできた。




通訳でお世話になったスーシー博士(左)とガイドしてくださったインドネシア国立大学図書館職員のエティさん。



図書館を入ってすぐに広場があり、ここでコンサートや演劇、講演会などが催されるということであった。三階から望むと遠くに人口湖も見える。




博士課程の学生たちの個室が完備されていた。三畳ほどのスペースだが、書斎のように使える研究室で、熱心に論文作成している学生の姿も見られた。通路には指導教授の指導が受けられる机と椅子が設置されていた。

図書館敷地内に造られた人口湖。環境は抜群にいい。








未整理のダンボール箱の中にはどのような本があるのか。

日本語の文献があるといわれていた図書室から下を見る。



漢字で書かれた雑誌を手にする山下さん。

日本人学生のボランティアを提案するスーシーさん。

日野日出志さん。

中国語で書かれたロシア語文法書


ロシア文學コーナーへと向かう。


ドストエフスキー全集 全十五巻本のうちの第八巻。「永遠の夫」と「未成年」が収録されている。画面のほぼ中央。

ちなみに下の写真は清水正研究室に置いてある同全集。