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紙のむだづかい(連載115)
小林リズム
【好きな人が、読書家でした】
昔から、テレビにでてくるサンタさんは信じていなかった。ニュースや映画で「ほら、あれがサンタさんだよ」と言われる赤い服を着た外国人のおじいさんは、ふつうの人間だときちんとわかっていた。だからといって“サンタさん”そのものを信じていなかったわけではなくて、サンタさんは誰にも見えない形で存在すると思っていたのだった。きっとおばけみたいなもので、触れたり見たりすることはできないけれど、でも、いる。
そうやって、幼いころから現実的でないものばかり求めていたので、「宮崎あおいちゃんみたいになりたい!」とか「石原さとみになりたい!」なんておこがましいことを思ったことがなかった。彼女たちは圧倒されるくらいにカワイイけれど、わたしのなりたい像とは違うのだ。じゃあ、何になりたいのかっていうと、それは「小説のなかに出てくるような女性」なのだった。
小説のなかで登場する女性というのはさまざまなのだけど、強いていうならこんな感じ。
・白魚のような美しい手
・パステルカラーが似合う
・儚げで触れられない
・届かなくてもどかしい
・ときどき悲しげな表情をする
・「そうよ」「いいわね」という言葉遣いで、笑うときは「ふふっ」
・艶やかで美しいストレートの黒髪
このように、なにひとつ自分とかぶる要素がないのでなおさら、「小説のなかで出てくるような女性」に憧れるのだった。彼女たちは等しく病弱だったりワガママだったりするのだけど、そこがまた魅力のなかのスパイスとなって神々しくさせている。特に男性作家の描く女性は生身でない女性の美しさをありありと浮かび上がらせることが多くって、「やっぱり男性って女性に夢を持っているんだなぁ」と自分のことを棚に上げて笑ってしまうのだった。
毛の処理、生理用ナプキンの取り換え、鼻の下の産毛の処理、靴を脱いだあとのストッキングの匂い、そういう現実的なものを華麗に放り出して、小説に出てくる彼女たちは鈴のような声で彼らにささやく。消えてしまいそうなもろさに男性は恋い焦がれる。男性は現実にいる文学少女たちに「小説に出てくるような女性」を重ねる。だから彼らは言う。
「好きな人はさ、読書家の女の子だったんだ」―。
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