ユッキーの紙ごはん(連載6)

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ユッキーの紙ごはん(連載6)


【弱肉強食、人間社会じゃ肉の方】

ユッキー
以前、私が家に一人でいるとき、蜂がベランダにやってきた。角のあたりをうろうろしているのを見ていたが、そのうちいなくなっていた。
しかし、次の日もまたやってきた。前日と同じところをうろうろしているが、今度は長い。花も置いていないのに変だなあと思い、蜂がいなくなってからベランダに出てみたら、なんと巣を作られていた。蜂も家を作るときは物件の下見をするんだ……。

驚いて、両親に報告。さっそく父親が巣を壊しにかかる。拳ほどの大きさしかないその巣は、土を塗り固めたような見た目をしていた。これがものすごく硬いらしく、父が霧を吹きかけてシャベルで削ろうとするも、なかなか壊せない。
するとそこに、一匹の蜂が帰ってきた。キャーお父さんが刺されちゃう! と母と叫びあう(でも蜂が入ってきたら嫌なので、窓を開けてあげずに父親締め出し。ひどい)。しかし父は冷静に殺虫剤を蜂に直撃させ、蜂はフラフラ逃げて行った。巣を壊すことは諦めて、ただもう蜂が使えないように、巣の中に殺虫剤をたっぷりと注入して父は家の中へと帰ってきた。

ああびっくりしたねー。なんて言いつつ、せっかくだから何の種類の蜂なのかを調べておこうという話になり、パソコンを開いた。黒とオレンジの色合いをしていたけど、もしかしてスズメバチ……と思いながら調べたところ、スズ「メ」バチではなく、スズバチだった。
ふーん、スズバチ。初めて聞いた。どうも大人しい性格の蜂らしい。更にインターネットで調べていたら、そのスズバチは母親蜂が一匹で巣を作り、幼虫を育てる種類だということがわかった。

えっ、つまり……あの蜂はシングルマザー……。そう気付き、もやもやと頭の中に彼女の物語が浮かび上がってきた。
交尾した雄と別れ、母親がたった一人(匹?)、細いアシで土を少しずつ運び、苦労してささやかな家を作り上げ、これから子どもとともに暮らしていこう、子どもは私が一人(匹?)で守って立派に育てあげてみせるわ、と決心をしたであろうときに、無慈悲な人間に家を壊されてしまった。自分も殺虫剤による傷が大きく、おぼつかない足取りだ。家の中に残されていたわが子たちは恐らく殺されてしまっただろう……私はやっぱり、あなたがいなくちゃ何もできない女だったわ……と別れた男に思いを馳せながら、死んでいったのだろうか。

ま、でも、人家に巣を作るほうが悪いよね!
私は無慈悲な人間なので、けろっと蜂への同情をやめた。

哀れなシングルマザーの家は、いまだに自宅のベランダの角にひっそりと遺されている。

※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。