小林リズムの紙のむだづかい(連載63)

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紙のむだづかい(連載63)


小林リズム

【人生至るところに青山あり】



 久しぶりに会いに行った父方の祖父に「次はどんな仕事をするの?」と聞かれたので
「とりあえず、スーツ屋さんでアルバイトをすることにしたの」と答えると「ケーキ屋さんでアルバイトするのかぁ」と勘違いしていた。
 84歳になったおじいちゃんは、ちょっとばかし耳が遠い。でも、以前会ったときよりずっと髪の毛も生えた気がするし、若々しくなっていてパワーがあった。肌艶もよくて、なんだか生命力をガンガン発散している感じがした。

「会社を辞めたって聞いたから何かあったのかなぁってびっくりしたけど、ひどい会社だって聞いたから…」
とおじいちゃんはゆっくりとしゃべって、お勧めの本を貸してくれた。私はどんなふうな会社だったのかとか、どうして辞めたのかを話そうとしたけど、説明しにくくて困った。「卑猥な言動とか…社員全員が精神異常って言われたり…それから…」と話しても、なにせ耳が遠いので何度も言わなければならない。「卑猥で…」「え?」「ひ、わ、い!」「祝い?」みたいなやりとりを延々と続けたあと、伝わったのかどうかはわからないけど「とりあえず元気そうでよかったよ」と言ってくれたのだった。

 毎日朝起きたらダンベルで腕を鍛えている話とか、最近読んだ本の話とかをスローペースで話し終えてから、おじいちゃんはポツリと「人生至るところに青山あり」と呟いた。
「この世のあらゆる場所に骨をうずめる場所はある。ひとつの場所がダメだったからって道がなくなったわけじゃないよ」
とペラペラと言い出すのでびっくりした。私の現状を踏まえて言ってくれたのだと気付いて、不意打ちの名言に胸が打たれて、ちょっと固まってしまった。

 そうか、骨をうずめる場所は、自分の「ここだ!」と思える場所は、この世界のどこにでもある。持っていたものを失ってしまったからといって終わりじゃない。手に入れたと思っても一筋縄ではいかないし、見えているものが正解とも限らない。ようやく掴んだものでも味気なく思える日がくるかもしれないし、積み重ねていたものがあっけなく崩れるかもしれないし、どんなことがあっても続いていくのだ。それってなんか、すごい。今はまだ何も見えなくても、探していきさえすれば、骨をうずめたいと思える場所は、見つかるのかもしれない。そう思ったらスーッと血液がさらさらになったような、爽やかな気持ちになったのだった。私もどうせなら、おじいちゃんみたいにとことん長生きしたい。