小林リズムの紙のむだづかい(連載32)


紙のむだづかい(連載32)


小林リズム

【そろそろ無職とか言ってられなくなってきた】


 無職といっていいのは、1か月までだと勝手に自分で決めていた。家賃とか生活費とか、きちんと自分で払える自信がある期間は1か月くらいなのだけど、それまでにある程度の確実な収入を確保しないと住む場所さえ危うい…。もちろん両親にお願いするという選択肢もないわけではないのだけど、それが続くと両親には「長野県に帰っておいでよ」と言われてしまう。私にはこの言葉がホラーのように「ナガノケンニカエッテオイデヨ」と変換されるのだった。
 なぜだかわからないけれど、気付いたら私は自活するのが夢だった。ささやかですごく地味な夢なのだけれど、自分で自分を食べさせるということに憧れがあった。この4月に社会人になってやっと一人暮らしと自活生活をスタートさせたのだ。今だって料理といえばパスタとかカレーのレトルトだらけだし、「自炊してます!」と胸を張っては言えないけど、まあ普通に生活している。だからこそ一度出戻って親に頼ったが最後、もう一生どこにも行けないような気がする。なんといっても実家ってラクなのだ。絶対に自分を裏切らない両親がいて、ご飯が食べられて、何もしなくたって生きていける。子どもを育てることに責任はあるかもしれないけれど、親と過ごすことに責任は必要ない。生きていくのにこれ以上ラクな安全地帯はないと思う。あいにく、私はラクなことが大好きだ。努力とか根性とは無縁な性質だし、実家へ戻ってしまったら無理をしてまでラクな道から離れようなんて絶対に思えなくなる。
 つまり、生活するためには私はこれ以上無職ではいられないということだった。…というわけで、ネット上でアルバイト探しの旅に出ているのだけど、これがなかなか難しい。なんだかんだ言って、選ばなければ求人って山ほどあるのね…。アパレルだとか事務だとか秘書だとか、どれもやってみたいような気もするし、どれもやりたくないような気もするし、すっかりわからなくなってきた。ていうか、生活していくには月18万は必要だし、そうすると週5は働かないといけないし、でも週5で働くならアルバイトじゃなくて正社員のほうがいいんじゃないかとか、だったら転職活動再開したほうがとか、あれ、なんでそもそもアルバイトにしようと思ったんだっけ…と、パニックになってきた。
 一度社会人になって「この会社で骨をうずめる!」とまでは思えないにせよ覚悟をしたのに、まさか道をはずれることになって、そしたらもう「やりたいことやろうぜ!」みたいな開放的な気持ちに襲われて、恥ずかしげもなく無職宣言したんだけどさ。よく考えてみれば、好きなことして食べていけるほどお金がないのだ。学校卒業して今さら自分探しなんてどうかしてるような気がしてきて、また途方に暮れるのであった。