小林リズムの紙のむだづかい(連載33)

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紙のむだづかい(連載33)


小林リズム

【ATMさんへのお返事】


 
「俺のこと、ATMだと思ってるだろ」
と言われてしまった。言った彼は、哲学だとか難しい海外文学だとかを愛読する人で、そのなかのお気に入りの文章を引用して語りたがるような人だった(※連載1回目の「人生に意味なんてないんだよ」の人と同一人物)。出会った場所は、後輩と一緒に行ったスポーツバーという、まさにチャラついた聞こえの悪い場所で、彼の友達が私の後輩に猛アプローチして嫌われていた。
 しょっぱなから彼に「人生に意味なんかないんだよ」と諭され、「だから何?」とか「うっとうしいな」とか思わなかったわけではないのだけど、でもそういう面倒な話が決して嫌いでない私は便乗し、気付いたら言い合いをしていたのだった。「たいして生きてないくせに、人生に意味がないとか言っている自分のことが好きそうですよね?」「はぁ?お前まじうざっ!」みたいな、まったくもって色気のない酔っ払いの喧嘩だった。

 かくしてお互いがお互いをタイプでなく、でもフリーであった私たちは「友達の紹介」をオブラートに包んだ「飲み会」という名目で、何回か食事をした。後輩を連れてくる彼は太っ腹にもいつもご馳走してくれ、やたらと饒舌だった。社交辞令とか愛想とは無縁な人で、失礼なこともたくさん言う。そして、本人は突っ込んでいるつもりかもしれないけれど、やたらと殴る。おかげで私はその友人に何度もあやまらなくてはならなかった。大衆居酒屋で突然歌いだしたり、暴言を吐いたり、簡単にまとめると面倒くさい人。でも、裏表のない性格は気を遣わなくていいから一緒にいてラクな人でもあった。

 そして、その彼から突然メールが届いた。
「このままだと埒があかないから言うけど、俺お前のこと好きなんだわ」
…何のギャグかと思った。あれ?荒川静香がタイプだとか言ってなかった?まったくタイプが違うんだけど…。どういう心境の変化だろう…。そして彼のメールはこんなふうに続いていた。

「可能性ないならエッセイのネタにでも使ってくれ」

 …そういうわけで、使わせていただきました。

 …と書いて終わりにしようと思ったのだけど、だいぶ私の立場が悪くなりそうだから補足。なんだかんだいって応援してくれて、最後にネタまで提供してくれた彼を、ATMだと思ったことはなかったよ、とだけ言っておこう。