小林リズムの紙のむだづかい(連載34)

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紙のむだづかい(連載34)


小林リズム

【計算高く、田舎者アピール】


 面接とか美容室とか飲み会とか、とにかく初対面のときに、「長野県で育ちました…」と紹介するとウケがいい。たいていの人は「そうなんだー」と関心しながら「お蕎麦が美味しいよね」とか「自然に恵まれてるよね」などと返してくるので、私も調子に乗って「家の近くに熊が出たこともあるんですよ」とか「コンビニまで2kmくらい距離があります」と乗ってしまう。どうやら”田舎で育った”っていう事実には、相手を安心させる効果があるらしい。
 確かに、最先端なものに囲まれて生活してきた子はお洒落だし、とってもカッコイイけど、自分が劣っているよな負けているような気がしてしまって腰が引けてしまう。対等という関係って実はとても難しくて、そういう意味でも最初から下手に出られる田舎育ちは、何もせずとも相手を優位に立たせることができるのでラッキーなのだ。特に中高年のおじさま方は、目に見えて喜んでくれる。
 面接のときはひとしお「あぁ、良い空気を吸って育った無垢な子なんだなぁ」とか「世間知らずでおっとりと過ごしてきたんだなぁ」とか、良いように解釈してくれるから、こちらとしてはやりやすい。そうです、純粋なまま田舎から出てきて、世間も知らずに教祖に騙されてしまった可哀想な子です!…という体でアピールできるのだった。
 そんなふうに考えていると、先入観ってあるよなぁと思う。なるべく先入観は持たず、決めつけたりしたくもないけど、でもやっぱり無意識のうちに持ってしまうものだと思う。「この人なんか嫌だな」とか「この人なんか好きだな」とか、そういう「なんか」はきっと誰にでもあって、その「なんか」で相手の性格をジャンル分けにしていて、この人はこうだああだってカテゴライズしていく。だからその「なんか」が裏切られたときの反動ってすごく大きいと思う。「なんか可愛いな」と思っていた子のまったく違うすっぴんの顔をみたときみたいな、衝撃。
 私は「ぬくぬくと育って物を知らなさそう。どんくさくて、なんか良さそうな子」と判定されたりすることが多かったから、こんなふうに文章を書いて公開するのはリスク背負いまくりである。実際にバレたくない人もいるし、バレたら離れていくだろうなと思う人もいる。ツイッターに鍵をかけるのと同じような心境だと思う。自分を見せることって怖いことなのだ。
 こんなふうに、人って見た目とか環境とか見えている部分だけじゃないんだなって自分を振り返ってみても思うのに、でも、気づくと身近な人のことを知っているつもりになってしまうんだよね。この人は強いから大丈夫、とか、この人なら許してくれる、とか。逆に「私はこう思われているんだ」っていうのがわかっていて、自覚的に演じてしまったり。そうこうしているうちに、他人どころか自分までもがわからなくなる。こうなったら、職を探す前に自分を探したほうがいいのかも。リュック背負って海外放浪?思い切ってボランティアとか?そう思いながら、銀行で来月の家賃を振り込む。どこを探そうにも間違いなく、現実と自分はここにいるのだった。