小林リズムの紙のむだづかい(連載62)

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紙のむだづかい(連載62)


小林リズム

【素で合コンに挑む 後編】

 「とりあえずコレで帰って」
とお金を渡されてタクシーに乗り込んだ。車に揺られているうちに意識が覚醒してきて「あれ?無職で合コンでタクシーで…あたし何してるんだろう?」と我に返ったのだった。冷静に考えてみて、いきなり初対面の人にサラダのはみ出たお皿を突き出したり、思ったことをストレートに表現するのは失礼だったよなぁ…とか思い直していたら疲れた。
 そうか、いつも合コンの後に疲れたり空っぽな気持ちになるのは、素がどうこうの話ではなくて、信頼関係が結べていない人たちと裏を読み合いながらお酒を飲むからなのか!と思い至ったのだった。

「あー。もうだめだ、もう一生誰ともわかりあえない気がする…あぁ!」と酔っぱらったとき特有の寂しさに襲われながら、鼻をすすりながら泣いていると、タクシーの運転手のおじさんが「ハイ」と缶コーヒーをご馳走してくれた。
 私なら選ばないその甘ったるい缶コーヒーがまるで神の施しのように感じられて、気づくと運転手さん相手に
「実は先月会社辞めたんですよ。無職なんです。何が楽しいのかわからない初対面の人たちと飲みに行っちゃうんです。だいたい終わったあとって虚しくなるのに、今度は大丈夫かもしれないとか、思って、また同じこと繰り返して…」
 と厄介な酔っ払いになってベラベラとしゃべっていた。

 運転手さんは最初こそ元気づけてくれたものの、次第に現実味が帯びた話題になってきて、「身内や友人が事業に失敗して多額の借金をつくった話」だとか「自分がリストラにあって職を探すのに苦労した話」とか「こんな時間まで仕事をしていていかに辛いか」みたいな悲惨なエピソードの数々を語ってきて、無職の私の傷はさらにえぐられたのだった。

 後日談:タクシー代を出してくれた人からメールが届いた。「素の君ってチャーミングだね」…などという言葉が書かれているはずもなく「タクシー代の領収書、会社に送ってね!」という丁寧なご連絡。いやぁ、かけたお金と割りに合わない女でさーせん!