随想 空即空(連載128)兵役拒否を巡って

清水正の著作、D文学研究会発行の著作に関する問い合わせは下記のメール shimizumasashi20@gmail.com にお送りください

 

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。

sites.google.com

 

お勧め動画・ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk&t=187s

 

清水正の著作購読希望者は下記をクリックしてください。

https://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208

                清水正・画

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。 #ドストエフスキー清水正ブログ# 

 

有即無 無即有 有無即空 空即空 空空空 正空 (清水空雲)

随想 空即空(連載128)兵役拒否を巡って

清水正 

 齋藤宗次郎は『花巻非戦論事件における内村鑑三先生の教訓』の「二 事件の発生と先生の花巻到着」で次のように書いている。

  

  さて救われて以来四年、誠に信仰弱き者でありますが、キリストの愛内に燃えて、家族、親戚、友人、知人、攻撃者、迫害者は勿論、キリストの愛を以て、広く日本、遠く世界をも包まんものをとの夢を懐きました。そして之を実現せんと希望し苦心したのでありますが、何んたる奇跡、何んたる恩恵ぞ、聖霊は土塊に等しき私を用いて妻子を始め曾ての同僚たる小学校教師、私の教え子、また其の他の間にキリストの信仰に入る人を起されたのであります。

  私は此希望実現の拡大成就のために、切に祈り、深き考慮をめぐらして居りました折に、好機が到来したのであります。即ち、一方、日露戦争の危機次第に迫り来り、一方、私は休職の辞令を渡されたため、壮丁として再び徴兵検査を受けることに決したのであります。此際私は敵を愛せよの精神にもとずき、検査官の前に非戦論を堂々と主張して反対し、併せて多量の軍費を陸海軍に共用する国税を拒絶するを急務と信じ之を断行するの決心をしました。

  戦争の罪悪なる事はつとに「万朝報」並に「聖書之研究」誌上に内村先生から学び、他方過激なる反戦論を社会主義者より聞いて居りました。尚キリストの愛、その福音の真理のために殉ずるの美は、ステパノを始めイギリスのウイクリフ、ボヘミヤのフス、フローレンスのサボナローラの伝を読んで、純真強固なる精神に感動して居つたのでありました。死刑を覚悟に身辺の整理をかためた後、礼儀として一応其旨を書翰に認め、明治三十六年(一九〇三年)十二月八日内村先生に呈したのであります。文面は略しますが、実は私としては、私のこの態度に世人が同情してくれ、日本を始め世界各国にこの例に倣う人がふえるならば、多くの宗教家は勿論、政治家、軍人も之に賛成して目を醒し、終いには暗黒の戦争廃止に決し、平和を来らすであろうと期待し、先生もそれを承認して下さるだろうと考えたのでありました。然し之を受取つた先生の驚きと憂いとはどんなであつたでしよう。飛ぶが如くに返信が参りました。

   今日書面を以て御問合せの件は頗る重大なる事件に御座候間御面会の上篤と小生意見を申上ぐるまでは確定御控え願上候

 と先生は集会並に雑誌編集の多端の用務を急ぎ整理せられ、私らは特別祈祷会を開いて準備に全力を尽して其日の到来を待ちわびたのであります。数日の後精細なる予定の日程順序と共に

  世の中へは小生の御地行きは秘密に願上候

 と報ぜられました。かくて四十三歳の先生は兪々十二月十八日午前十一時赤羽を発し、夜半午前二時に寒風と二尺の雪に埋りし花巻駅に安着、私は血を躍らせて迎えました。箱橇の中に頭から毛布を以て覆われた先生は、吹雪の中を三人に曳かれ、二時半私の家に着かれました。三才の私の長女に土産の品を恵まれ、一杯の牛乳を摂つて就眠されました。(11~14)

 

 齋藤宗次郎は鑑三の非戦論を読んで共鳴し、それを現実において実行しようとした。戦争は罪悪であり、イエスも殺しを否定している。イエスの言葉に忠実であろうとすれば、宗次郎が選んだ途はごく当たり前ということになる。しかし、非戦論を徹底することは畢竟自らの死を覚悟しなければならない。宗次郎にその覚悟があったことはここに引用した文章を読めば明らかである。しかし彼は鑑三の説得によって兵役拒否の意志を翻している。これをどう理解すればいいのか。

 宗次郎は鑑三を尊敬し、彼の意見に耳を傾け、それに納得した。これを師弟関係の美談と見ることはできない。厳しい言い方になるが、宗次郎はイエスの言葉よりも鑑三の言葉を受け入れてしまったということである。ここに宗次郎のキリスト教徒としての覚悟の不徹底が露わになっている。この宗次郎の不徹底が鑑三の不徹底を曖昧にしている。〈不敬事件〉における鑑三の不徹底、その曖昧な態度は弟子宗次郎の兵役拒否問題の前でも繰り返されたということである。

 イエスの言葉は厳しい。イエスの後に従うためには財産、家族、地位名誉などすべてを捨て去り、さらに自らが処刑される十字架を背負わなければならない。換言すれば、これらのうち一つでも実行できない者はイエスの弟子とはなれないということである。休職中の宗次郎には幼い娘もいた。自分が投獄されたり処刑されるようなことになれば、残された家族の悲惨は目に見えている。宗次郎の当初の覚悟は、書斎で非戦論を唱えている者のそれとは明白に違うのである。

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。

www.youtube.com

 

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。 

エデンの南 清水正コーナー

plaza.rakuten.co.jp

動画「清水正チャンネル」https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B8%85%E6%B0%B4%E6%AD%A3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB

お勧め動画・ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk&t=187s

清水正の著作購読希望者は下記をクリックしてください。

https://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208

お勧め動画池田大作氏の「人間革命」をとりあげ、ドストエフスキーの文学、ニーチェ永劫回帰アポロンディオニュソスベルグソンの時間論などを踏まえながら

人間のあるべき姿を検証する。人道主義ヒューマニズム)と宗教の問題。対話によって世界平和の実現とその維持は可能なのか。人道主義一神教的絶対主義は握手することが可能なのか。三回に分けて発信していますがぜひ最後までご覧ください。

www.youtube.com

 

www.youtube.com

www.youtube.com

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。