プーチンと『罪と罰』(連載48)

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プーチンと『罪と罰』(連載48)

清水正

 

 この後、イヴァンはながながと語る。そのすべてが重要だが、その中からほんの一部を引用しておく。

 

 「(略)いったいこの世界に、ゆるすという権利を持った人がいるだろうか? ぼくは調和なぞほしくない、つまり、人類にたいする愛のためにほしくないと言うのだ。ぼくはむしろあがなわれざる苦悶をもって終始したい。たとえぼくの考えがまちがっていても、あがなわれざる苦悶と、いやされざる不満の境にとどまるのを潔しとする。それに、調和ってやつがあまり高く値踏みされてるから、そんな入場料を払うのはまるでぼくらのふところに合わないよ。だから、ぼくは自分の入場券を急いでお返しする。もしぼくが潔白な人間であるならば、できるだけ早くお返しするのが義務なんだよ。そこで、ぼくはそれを実行するのだ、ねえ、アリョーシャ、ぼくは神さまを承認しないのじやない、ただ『調和』の入場券をつつしんでお返しするだけだ」(上巻・383~384)

 

 わたしはこのイヴァンの言葉が好きだ。イヴァンは単なる神の否定者ではない。否定者であるとしても、こんなに苦悶のただ中で否定する者はいない。イヴァンは子供の虐待、虐殺が行われている世界を認めることができない。イヴァンは将軍の犬を傷つけて、家族から離され、一夜を牢の中で過ごさなければならなかった子供の不安と恐怖に限りなく寄り添うことができる。また子供を捕らえられた母親の苦しみと悲しみ、一睡もできなかったであろう母親の絶望的な気持ちに寄り添うこともできる。こんなイヴァンが、わずか八歳の子供が丸裸にされ、勢子に追われ、猟犬によって食い殺される現場に立ち会わなければならないとしたら、はたして彼の精神は正常を保ことができたであろうか。

 しかし世界は数え切れないほどの理不尽な出来事に満ちている。神はそのように世界を創造した。イヴァンは言う「ぼくは神さまを承認しないのじゃない、ただ『調和』の入場券をつつしんでお返しするだけだ」と。

 改めて考えれば、この言葉は奇妙だ。神が創造した世界の〈調和〉を認めることができないからこそ、イヴァンは世界への入場を拒んでいる。なぜ敢えて「ぼくは神さまを承認しないのじゃない」というような言い方をしているのか。ふつうに考えれば、神の創造した世界の〈調和〉を認めないということは、即、神を承認しないことを意味する。無辜な幼児虐殺を必要とするような世界の〈調和〉を認めないということは、そういった〈調和〉を創造した神を否定することである。なぜ、イヴァンはもっと単純な言い方で神を否定しないのか。相手が〈キリスト者〉アリョーシャであるから、遠慮して、わざわざ逆説的な言いまわしで神に抗議し、その存在を否定しているのか。

 つい先刻、イヴァンは〔Я хοчу οставаться при факте.〕と言っていた。つまり彼は言葉上では〈事実〉〔факт〕にとどまりたいと言っていた。この〈事実〉は無辜な子供たちの虐殺を含む地上世界のあらゆる出来事(つまり神が創造した〈永久調和〉の世界)を意味していたのではなかったか。わたしは『カラマーゾフの兄弟』を初めて読んだ頃から、イヴァンの意を酌んで〔Я хοчу οставаться при факте.〕を「事実にとどまるほかはない」と解していた。神の創造した〈事実〉(公平・真理・正義)を認めるわけにはいかないが、しかしこの〈事実〉にとどまるほかはないというわけである。

 〈事実〉にとどまりたくないが、〈事実〉にとどまらざるを得ないという、精神の分裂を抱えたイヴァンは、この物語の中で発狂する。わたしにとって「事実にとどまる」ということは悟りの境地に入るということでもあったが、イヴァンにとっては解決しようのない苦悶のままに狂いを招き寄せてしまった。イヴァンはフョードルの問いに答えて「神は存在しない」と断言していたにも拘わらず、神の呪縛から解放されていなかったということである。

 

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清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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表紙

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