プーチンと『罪と罰』(連載32)

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載32)

清水正

 

 トルストイモーパッサンの『水の上』の文章を引用した後で次のように書いている。

 

  著者には戦争のあらゆる恐怖がわかっている。戦争の原因は政府が人々を欺き、彼らにとってなんの必要もないのに人を殺しに、そして自らも死にに行かせる点にあることもわかっている。軍隊を構成している人々が武器を政府に向け、説明を要求することがあるかもしれぬということもわかっている。だが、この著者は、そのようなことはけっして起こるまいと考える、したがってこの状態からの出口はないわけだ。彼の考えでは、戦争というものは恐ろしい、だがそれは避けられぬものであり、人々を兵役に就かせようとする政府の要求もまた、死と同じく避け難いものであり、しかも政府は常にそれを要求しつづけるだろうから、戦争も常に起こることになる、というのである。

  天賦の才に富み、誠実で、詩的才能の本質をなす対象の核心への透徹力に恵まれた作家はこう書いている。彼はわれらの前に人々の意識と活動との矛盾のきびしさを残らず並べたててみせてくれる。が、これを解決することはしないで、どうやらこの矛盾はあらねばならぬものであり、そこに人生の詩的な悲劇性があると認めているかのようである。(337)

 

  トルストイは人類がやがて戦争のない世界を実現できると考えていたのであろうか。もしそうだとすれば、それは大いなる驚きである。『戦争と平和』を書いて、現実に起きている戦争よりもリアルに戦争を描き出したのがトルストイだったのではないか。わたしは初めて『戦争と平和』を読んで、圧倒された。それはまさに作品世界の中に、現実の戦争以上の戦争を感じたからである。『アンナ・カレーニナ』を書いたトルストイは、まさかそれを書くことによって男と女は不倫から免れるなどと考えはしなかったであろう。戦争は各個人の意志を越えて必然性を持っている。それは起こるべくして起きるのであり、戦争の残酷と悲惨を眼前にした一人の人間の悲憤と抗議によって阻止できるものではない。

    モーパッサンの人間や自然に注ぐ眼差しは、個人の意志を越えたもの、被造物の人間の意志によってはどうすることもできない神秘的なものをとらえている。人間の意志が介入できない、自然のあるがままの姿に接して驚嘆し、悲憤し、抗議し、絶望することはできても、その世界の改造が可能などとはつゆ思うことはない。解決を望む精神にとって、戦争は〈矛盾〉であるかも知れないが、戦争もまた逃れぬことのできぬ必然と考えればそこになんらの矛盾もないということになる。

 作家の冷徹な眼差しは本来、介入を許さぬ自然の必然性に向けられるものだが、どういうものかトルストイは与えられた自然にそのまま従うことはできなかったらしい。トルストイは自然の、あるいは人間社会における様々な矛盾を暴き出し、それを解決しなければならないと真剣に大まじめに考えているらしい。

 作品の世界において人間の諸矛盾を描き出した文豪トルストイは、一人の人間としてコメントする時にはまるで小学校の学生指導の教師のような口のききかたをする。ひとつのおおいなるふしぎとしか言いようがない。トルストイは現実を直視し、現実の冷徹な自然性を認めざるを得なかった作家たちの、その世界に対する悲観的な、傍観者風の、あるいは絶望的な批評をそのまま認めることはできず、彼なりの徹底性を発揮して〈解決〉しようとするのである。

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