プーチンと『罪と罰』(連載31)

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                清水正・画

 

プーチンと『罪と罰』(連載31)

清水正

 

 戦争の惨劇を目の当たりにすれば、良心のあるものなら人間そのものに嫌悪を抱くだろう。悲観と絶望のあまり自ら命を絶った者もある。人類が存続すること自体が計り知れぬ罪深いことのように思う人がいてもなんら不思議ではない。

 連日、ウクライナ関係の報道を見聞きしながら、わたしはマンション前の公園に集まる数匹の鳩を見つめていた。わたしは現在、神経痛で外に出るのも億劫で、たいてい一日中、仕事場にしているマンションの一室に寝起きしている。朝の食事は午前三時頃、小さな棒状のパン一本にネリウメをつけ海苔に巻いて食べている。野菜ジュースをコップに半分ほど、後は薬を八粒ほど呑んで飲んで横になっている。一年に二十回ほどしか外出しない。

 ある日、着替えて外に出て、公園の鳩にパンをちぎって与えた。鳩は十羽ほど集まってわれさきにとエサをついばむ。日光浴を兼ねて一時間ばかり公園のベンチに座っていた。公園に植えられた木々も大きく成長し、緑の枝葉を風に揺らせている。鳩に遠慮してか、雀たちは地に降り、木々の間をせわしく飛び交っている。

 その日から何日かして、マンションの窓を開けて、ちぎったパンくずを公園に向けて投げたら、気づいた鳩が何羽か集まってきた。三日もすると、窓のカーテンを開けるその音だけで、窓の周りを旋回する鳩も出てきた。

 ある日、エサを啄む鳩の群の中に、黒々とした烏が突然舞い降りてきた。烏は悠々と、歩き、大きめのエサを次々に口にくわえ、そしてなにごともなかったかのように飛去った。その間中、鳩たちはなすすべもなく、ただただ逃げ回っていた。烏がいなくなると、再びエサを捜してせわしなく動きまわっているが、目当てのエサはもはやない。

 翌日の昼、食事を運んできた妻が、烏が鳩を襲って食べていたと言った。エサが足りないとき、烏は鳩など自分より弱いものを襲っているらしい。庭の柘植の木に小さな鳥が巣を作って子育てしていたということだっが、こちらの方はだれにも襲われることなく巣立ちしていったらしい。

 マンションの窓から見える野の動物は、鳩や烏や雀に限っているが、彼らのつかの間の生態を観察しているだけでも、生きる自然の厳しさを感じずにはおれない。烏が舞い降りてこなければ、鳩同士ですさまじいつつき合いをしているし、雀は鳩たちの目を盗んでエサをすばやく口にして飛び去っていく。

 ある日、なんとはなしに鳩にエサをあげることを止めた。彼らが生きている自然の厳しさに、エサを与える行為が不自然な干渉のようにも思えてからである。

 トルストイが引用したモーバッサンの「水の上」の文章をわたしはすべて引用したが、それはトルストイが引用せずにはおれなかったようなリアリティがあったからである。モーパッサンは現実のありのままの姿を描写しているが、その現実に対する改変の意識はない。戦争の残虐非道を描いても、それを防ぐ手だてを考えたりはしない。そんな人間の考え自体の傲慢を知り尽くしているからである。

 残虐非道を嘆き悲しむのも人間だが、その残虐非道を行っているのも人間なのだ。モーパッサンは自分の目が見た現実の変更不可能性をも見ているのである。

 トルストイは現実にとどまることができず、なんとかしてこの現実からの超脱をはかろうとする。

 

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プーチン独裁をなぜ国民は許しているのか考えてみた その1。ゴルバチョフエリツィンプーチン、3大統領の1990年〜2000年。

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清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

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表紙

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目次

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