「畑中純の世界」展を観て(連載29)

今年は宮沢賢治生誕百二十周年にあたる。今まで単行本に収録していない千五百枚強の賢治童話論
を刊行することにした。『清水正宮沢賢治論全集』第二巻として今年中に刊行する予定で準備に入った。現在、校正中。

清水正が薦める動画「ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ」
https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk

清水正の講義・対談・鼎談・講演がユーチューブ【清水正チャンネル】https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B8%85%E6%B0%B4%E6%AD%A3%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%AD%E3%82%8Bで見れます。是非ご覧ください。

京都造形芸術大学マンガ学科特別講義(2012年6月24日公開)
ドラえもん」とつげ義春の「チーコ」を講義

https://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg

清水正ドストエフスキー論全集』第八巻が刊行されました。


清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。
清水正『世界文学の中のドラえもん』『日野日出志を読む』は電子書籍イーブックジャパンで読むことができます。ここをクリックしてください。http://www.ebookjapan.jp/ebj/title/190266.html


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四六判並製160頁 定価1200円+税


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畑中純の世界」展を見て
 大神田みずき






入り口からすぐのところに『畑中眞由美 像』がありました。俯いた顔がとても美しかったです。暗めの色彩に、赤いセーターがよく合っていました。ふっくらとした頬や唇に、可愛らしさと、日本の女性らしさを感じました。
続いては宮沢賢治のゾーン。『雨ニモマケズ』、1996年の木版画です。まずは1枚目、左上の大きな目が印象深いです。背景の細やかさにも目をひかれました。個人的に、右上の映写機が好きでした。左下のコンパスが北を向いてないのが、くるくると回り続けるコンパスを想像させてくれました。 2枚目ですが、なんといっても右側の長い男性。おそろしく不気味でした。そして、宮沢賢治といえばこの写真、と言っても過言ではないあの写真が忠実に描かれていました。女性の顔には哀愁 が漂い、空の列車は煙をふき出し……神秘的な世界がそこにはありました。
注文の多い料理店』、まず目をひかれるのは大きな猫です。顔の真ん中が木に隠れているのが雰囲気がでていました。2人の男と2匹の犬が今まさに動き出して、店に入っていきそうです。
1983年の木版画、『猫の事務所』。これはとにかく可愛いです! 小物ひとつひとつが細やかに描かれているのも魅力的でした。
『永訣の朝 宮沢賢治』。これも1996年の作品です。陰影のつけ方が素敵でした。かなり影がある感じです。お隣の『永訣の朝 宮沢トシ』は陰影があまりなく、かなり明るいです。その対比がまた良く、これは2枚揃って初めて完成形になるのかな、と思いました。あめゆじゆとてちてけんじゃの文字は、とても味がありました。
そして『ツェねずみ』、『オッペルと象』を過ぎ目に留まったのが、『セロ弾きのゴーシュ』です。中央の男性(セロを弾いているのでおそらくゴーシュ)の存在感がすさまじかったです。彼の耳はいったい……?
そして『小岩井農場』。列車を降りているところ、臨場感があっていいですね。
風の又三郎』を過ぎ、 『銀河鉄道の夜』の4枚にたどり着きました。どれもひとことで言えば綺麗です。しかし、1枚1枚、綺麗のかたちが違います。個人的に右から2枚目、列車内から外を見ている画がいちばん好きでした。
そして『どんぐりと山猫』。こちらはたくさんの場面がありました。その数なんと9枚! 最後(一番右)の画が不気味でしたが、すごく引き込まれる絵でした。馬の目と、人の目 。どちらも目を合わせてはいけないような、そんな気がしました。
水仙月の四日』を見ていると目に飛び込んできたのは、お隣『月夜の電信柱』です。きりりとした顔がこちらを見つめてきます。その後ろにはまた電信柱さん。その後ろにもまたまた電信柱さん。描かれているのが1本ではないところ、好きでした。電信柱は何本も繋がっているものですものね。

さあ、入ってきました。[カオスとエロスとファンタジー曼陀羅宇宙]のコーナーです。
『オバケ15話 「明暗」 より』。このあたりから文字がでてきました。「黒く塗れ」という、いきなりインパクトのある文字です。
イグアナのような、鯉のような……とにかくお魚の絵は、とても雰囲気がありました。2枚連続で中央に大きな魚(?)がいるのがまた、それを強く感じさせました。
ここから漫画風の画がたくさん出てきます。色付きのものはとても鮮やかで、ペンが細かいです。かと思えば、かなり太いタッチのものもありました。この描きわけ! とても好きです。筆で書いたような「水やろか〜」の文字を、10秒ほど見つめてしまいました。
『百八の恋』ゾーンに入りました。印象に残ったのは1枚目です。前は鮮やか、後ろはぼかす。タッチを変えることで、遠近感を出している手法にはとても感心しました。
そしてそして、やっとここまできました、『まんだら屋の良太』です。赤、黒、白で描ききっているインパクトの強さといったらありません。日の丸が描かれていたからでしょうか、やはり白と赤が使われていると、日本が連想されますね。
良太の顔が大きく描かれているものもありました。フチが太いので、パッと見ていちばん目に焼きついたのがこれだったかと思います。先生の言っていた、「九鬼谷温泉は現実的な時間・空間を超えた永遠の理想郷として描かれている」というのが、これらの画を見て少しわかったような気がしました。やはりエロスを感じますね。
『ガキ』はとにかく繊細でした。細やかな線、これにはもう目を奪われてしまいました。

畑中純さんの画を見て感じたのは、「人間」と、「像や魚、木などの物体や風景」の、タッチの違いです。物体はすごく繊細で、写真のようでした。再現率が高いと言えばいいのでしょうか。しかしそれとは逆に、人間はあえて本物っぽさをなくしていると言いますか……「写真」より「自分の絵」にしているという感じがしました。
「カオスとエロスとファンタジーの、怪しくも牧歌的な逸楽の世界」に、どうやら私も誘われてしまったみたいです。