「畑中純の世界」展を観て(連載28)

今年は宮沢賢治生誕百二十周年にあたる。今まで単行本に収録していない千五百枚強の賢治童話論
を刊行することにした。『清水正宮沢賢治論全集』第二巻として今年中に刊行する予定で準備に入った。現在、校正中。

清水正が薦める動画「ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ」
https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk

清水正の講義・対談・鼎談・講演がユーチューブ【清水正チャンネル】https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B8%85%E6%B0%B4%E6%AD%A3%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%AD%E3%82%8Bで見れます。是非ご覧ください。

京都造形芸術大学マンガ学科特別講義(2012年6月24日公開)
ドラえもん」とつげ義春の「チーコ」を講義

https://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg

清水正ドストエフスキー論全集』第八巻が刊行されました。


清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。
清水正『世界文学の中のドラえもん』『日野日出志を読む』は電子書籍イーブックジャパンで読むことができます。ここをクリックしてください。http://www.ebookjapan.jp/ebj/title/190266.html


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四六判並製160頁 定価1200円+税


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畑中純の世界」展を見て
 森本勇太



畑中純さんの展示会、まんだら屋の良太を読んで感じた事」

僕は、雑誌研究で行なわれた畑中眞由美さんの講演会で話を聞くまで、畑中純さんの作品を読んだ事は一度もなかったのですが、授業で〈まんだら屋の良太〉を知り、自分なりに調べ、実際に手に取り読んでみました。
調べるまでは、ごく普通の漫画だと思っていたのですが、十年間にわたる連載や漫画家協会賞を受賞していたりと、素晴らしい功績を残しており驚きました。
またアシスタントを雇わず、巻数53巻にまで及ぶ大作を描き上げ驚異の連載を成し遂げていた事が、僕にとっては衝撃的でした。
そして、実際に読んでみて、文学性の強いストーリー漫画だと思いました。更に、作中のキャラクターは数が膨大であるにも関わらず、それぞれ描き分けられていて、その各キャラクターにしっかりとした人物設定があった。そういった、細かい部分にまで気を配り作品を構成している事に感銘を受けました。
そして、細かくしっかりとした人物設定があるからこそ、内容も充実させる事が出来ているのではないかと思い、エロスであったり人情や面白さがあって、どこか共感する事もできました。
〈まんだら屋の良太〉はエロス・性描写がすごく多く、汚い等、否定的な意見を持つ人もいると思います。畑中眞由美さんを招いた講演会でも、長男の元さんが「汚くて僕はあまり好きじゃやない、読めない」と仰っていました。もちろん、自分の父親が描いた作品であるからこその特別な想いがあるのだと思いましたが、読んでいく内に汚い、読めないとは思わなくなり、人間のありのままの姿や人間の欲という風に見えてきます。
人間の生命力のある、ありのままの姿だと思うので僕はすごく好きです。
描いている描線もとても開放的で濃く太く、人の生命力やあるままの姿をそのまま描いている線だと感じました。授業で先生も仰っていた「畑中純さんだけにしか描けない描線」という意味が何となくですが分かったように思えました。
そして、冒頭で「文学性の強いストーリー漫画」だと言いましたが、それは良太のセリフを読む事によって感じる事が出来ました。
文学が好きな人が書いた様な、文学者が書いたという様な。そのような感覚に陥りました。
恐らく、畑中さんは文学に対しての知識が物凄く豊富で、文学に精通していたのではないかと思いました。
読んでいると、作品にどんどん引き込まれていき、そして良太自身の人間性にも引き込まれていきました。
大人でもなく、子供でもなく。中途半端な部分もあり、共感しながら読む事が出来ました。
学校で開かれている展示会では、「まんだら屋の良太」以外にも、様々な作品があり、とても興味深かったです。
畑中眞由美さんの貴重なお話や「まんだら屋の良太」を読んだ直後に鑑賞した展示会なので、尚更、強く他の作品に対しても興味が湧いてきました。
展示も絵の展示や本の展示を交互に展示していて、飽きる事のない展示であると個人的には思いました。
展示作品の中で最も気に入った作品は、版画展示の「宮沢賢治雨ニモマケズ」です。
何故なら、漆黒の線が深く濃くはっきりと分かりやすく、版画そのものの印象はとても力強いものでした。しかし線は丸く優しく描かれており、描かれている動物と人もとても優しい版画だったからです。
畑中純さんの人柄が出ているのではないかなと少し思いながら観ていました。
お会いした事はもちろん無く、写真でしか見た事のない畑中純さんですが、娘さんがお父様の事を聞かれ答える際に、思わず泣いてしまったり、眞由美さんのお話を聞きながら、頷いていたり、その様な家族の姿を見ていると、畑中純さんはとても優しく、良い父親であったんだろうと自然に思えました。
その優しさが滲みている展示作品だったと思います。
「まんだら屋の良太」の世界の様に現実世界も戦争や文化の違い、過去に囚われず、全てを受け入れる事が出来たらと物凄く感じました。
この展示と同時期に池袋で開かれている、世界報道写真展を観に行きました。
現実世界は漫画とは違い、あたり前の様に人を殺している状況です。到底、全ての人を受け入れる事が出来るという状況ではありません。世界情勢については日々の報道で耳にしていた事ですが写真という媒体を通してそれを目の当たりにし、ショックを受けました。
日本は、そういった国からみるとまだまだ平和ですが、最近では安保法案が強行可決され揺らいでいます。
戦争を行い、同じ人類で再び殺し合いを始めてしまうのか。それは誰にも分かりません。
しかし、世界平和を願っている人が世界中に多くいる事は紛れもない事実です。
僕自身も世界平和を願っています。
今の不安定な世界情勢であるから、殊更に畑中純さんの描く全てを受け入れるという、漫画だからこその異世界に強い魅力を感じてしまうのかもしれません。