「畑中純の世界」展を観て(連載27)

今年は宮沢賢治生誕百二十周年にあたる。今まで単行本に収録していない千五百枚強の賢治童話論
を刊行することにした。『清水正宮沢賢治論全集』第二巻として今年中に刊行する予定で準備に入った。現在、校正中。

清水正が薦める動画「ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ」
https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk

清水正の講義・対談・鼎談・講演がユーチューブ【清水正チャンネル】https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B8%85%E6%B0%B4%E6%AD%A3%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%AD%E3%82%8Bで見れます。是非ご覧ください。

京都造形芸術大学マンガ学科特別講義(2012年6月24日公開)
ドラえもん」とつげ義春の「チーコ」を講義

https://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg

清水正ドストエフスキー論全集』第八巻が刊行されました。


清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。
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四六判並製160頁 定価1200円+税


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畑中純の世界」展を見て
  稲葉あい

畑中純の世界を鑑賞して》
私は畑中純という漫画家を、この授業を通して初めて知った。
はじめて、まんだら屋の良太の冒頭部分を読んだ時、絵に対しても、性描写に対しても抵抗感はなかった。
講演会の際に、驚いたという感想もあったが、性というものは、人間とは切っても切り離すことのできない存在であるから、それを惜しげも無く描くことが出来るのは素晴らしいと私は思った。
また、ありのままの人間を描きたいという、畑中さんの志は芸術家として、とても素晴らしいものであると思った。
やはり、それが人間が一番惹かれる、芸術におけるテーマであると思う。だからこそ多くの読者を惹きつけたのではないかと私は思った。
講演会の後に、展示会を観に行ったためか、カオスとエロとファンタジーの世界を創造しているのだが、どこか暖かみを感じる作品が多くあるように思えた。
やはり、家族の支え無しでは成し得ない事であったのだと思った。
ご家族の話しを聞き、奥さんと息子さん、娘さんでの作品に対する考え方は、それぞれ違っていたが、暖かく、子供は子供なりに葛藤もあっただろうが、畑中さんを支えていたのだと思う。
改めて、暖かい家族だと思った。
畑中さんが描く世界だけでなく、そのような家族の暖かみを感じる事ができ、余計に畑中さんの作品に自分が惹かれたように思えた。
また、個性的な絵で、他ではあまり見る事はない。
しかし、その個性的な絵の中に、畑中さんの情熱を感じる事もできた。
展示されていた全ての絵のタッチが、力強く感じた。
畑中さんの熱い想いが、じわじわと伝わり、自分もそれを感じとることができ、感動を覚えた。
そして、畑中さんの代表作である、「まんだら屋の良太」の舞台である、九鬼温泉。何者をも受け入れる、理想郷。
現代の社会において、一番求められていることであると思う。現代だけではなく、人間が社会というシステムを創り出してからの課題であると思う。
確かに、宗教というのはとても複雑であり、解決策を見つけることが出来ない問題である。実際に世界では、宗教を取り巻くテロ等が多く起きている。
過去に犯した戦争という過ちも、他者を受け入れる事が出来なかった結果である。
同じ人類が、お互いを傷つけ合い、滅ぼし合っていく。愚かな行為を繰り返し続けているのが現実である。
だが、畑中さんの描く九鬼温泉は、人間が求めなければならない真の世界である。
誰をも受け入れ、宗教や人種の壁を越えた世界を願う人は多くいると思う。
畑中さんも、そのように願う一人であったのだろう。
だからこそ、あのような理想郷を壮大な想像力をもって創り出したのだろう。
しかし、現実はそう簡単にはいかない。問題を解決したかのように思えて、解決出来ず、またそこから新たな問題が勃発する。その繰り返しである。
いくら、世界平和を訴えても、実現されることが無いのが現実だ。世界のどこかでは、紛争が必ず起きている。
だが、世界平和を訴える事を止めてはいけないと思う。
それを止めてしまえば、事態を悪化させる事は明白であるからだ。
だからこそ、畑中さんは世界平和という想いを漫画という形で伝えたのではないだろうか。
作品を深く考えていくと、漫画という範疇にはおさまりきらなくなっていると思う。
世間一般では、漫画は娯楽の一つでしかない。
だが、今回の講演会・展示会を通しそうではないという認識が自分の中でできたと思う。
もちろん、作品にもよるのだが漫画も立派な文学作品である事を強く実感することが出来たと思う。
このような、漫画が増えていくべきだと思う。
作者の真意を深読みすることは難しく、ある程度の理解能力が無ければそれを読み取ることはできない。
しかし、自分が成長した時に読み返すと理解できる。
そのような作品が、広い年代に愛され、名作として残っていくのでは無いかと私は思う。
「まんだら屋の良太」もそうであると思う。思春期に読めば、面白おかしく、ちょっぴり恥ずかしさもあり。大人になって読み返すと、また若い頃の自分とは違う解釈ができる。
だからこそ、広く愛され、高い評価を受けることが出来たのではないだろうか。
私自身、畑中純さんの作品に今迄、触れることはなかったのだが、とても興味を持つことが出来た。
普段は、いま人気のある漫画しか読まないのだが、「まんだら屋の良太」を少しづつでも読めたらと思う。
また、このような素晴らしい、漫画家、芸術家が日本にいたという事を後世に伝えていく事も大切なことであり、残されたものの使命であると私も強く思う。
今回、このような機会に恵まれ、本当に良かったと思う。
新たな芸術作品に触れる事で、新たな刺激を受けることができたと思う。
畑中さんの創り出した不思議な世界に、自分が引き込まれつつあるように思え、短い時間ではあったが、展示会では完全に畑中さんの世界に引き込まれていく自分がいたように思う。