小林リズムの紙のむだづかい(連載108)

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紙のむだづかい(連載108)
小林リズム

【余韻を残さない女】
 
 住んでいるマンションのエレベーターに乗り込んだら、強烈に甘ったるい香水のにおいが充満していてものすごく臭かった。この南国のココナッツっぽい匂いは、きっと若いギャルに違いない。エレベーター内の壁は絨毯っぽくなっているので、匂いを吸収しやすいのだと思う。「にしても、これはキツいよなぁ」と思って息を止めながら1階のボタンを押したのだけど、3階でエレベーターが止まったから何かと思って見ると、エレベーターの窓越しに若い青年がいたのだった。
 このマンションではあまり人とエレベーターに乗るタイミングがかぶることがないし、まして同年代の青年が乗ってくることもなかなかないので、このタイミングって恋につながるんじゃないの?!とかひとりでドキドキしてしまったのだけど、エレベーターが開いた途端、青年が「うっ」という顔をして一歩引き下がったので驚いた。
 え、なに?一緒にエレベーター乗るの嫌?とショックを受けたのもつかの間、原因はすぐに「あぁ、この匂いだなぁ」とわかった。青年はこの甘ったるい匂いにやられてしまったに違いない。エレベーターが開いた途端、エレベーター内にたちこめていた香りがぶわっと風に吹かれて青年のもとへ流れていったのだ。「あぁ、よかった、嫌がられたわけじゃなくて…」と思ったのだけれど、よく考えてみたらエレベーターには私以外に乗っていないのだから匂いの元凶は私だと思われるのでは…と気づいたのだった。

 こういう場合、どうすればいいのだろう。「あの、エレベーターのこの匂いは私の匂いじゃなくてですね…」と説明するのもうざったいだろうし、かといって「このエレベーターくさいですよね」というのも、初対面なのに失礼かもしれない。かといって、黙って私がキツい匂いを発していると思われるのもいや。…と思っていたけれど何もいえないまま時は過ぎ、ふたりして息を止めているのか、呼吸音さえ聞こえない静まり返ったエレベーターはゆっくりとおりていくのだった。

 あぁ、私は甘ったるい匂いを身体中にふりまいて迷惑をかけ、なおかつそれに気づいていない女だと思われて終わるのだろうな…と諦めた矢先、なんと青年が濃厚な匂いにヤラれたのかごほごほと咳き込むではないですか。これだ!と思い、私もここぞとばかりに便乗して、迫真の演技で咳き込み「このエレベーター内くさいですよね」アピールを身体で表現したのだった。なんだか密室内の甘ったるい匂いの空間のなかで、青年と心が通じ合えた気がした。何もなかったけど。

 とりあえず“困ったときの咳き込み”方法は使える!と学んだのだけれど、まだまだありました。もっと強烈でプライバシーに関わるやつで、それはトイレの匂いなのだった。特に男女共有のトイレとかだったりすると、匂いのモトが自分じゃないっていうアピールをどうしてもしたくて、でもどうやってもできないというコンフリクト。わざわざバッグからスプレー式の軽いオードトワレとか取り出してしゅっしゅっってトイレに向かって吹きかけたりするのだけど、なんだかこう、匂いが混ざり合って中和してなんとも言えない香りになるというか、もっと濃くなるというか、あれはよくない。だからもう、そういうウンが悪い日は、諦めてトイレを出たあとに颯爽とそのお店とか喫茶店をあとにするのが、スムーズな淑女のたしなみ、だと思う。香りは残しても、存在は残さない。後味すっきり、さっぱり、で今日も快適。
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