小林リズムの紙のむだづかい(連載95)

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紙のむだづかい(連載95)
小林リズム

【見て見ぬふりをする大人になる前のころパンツを全力で守った】


 学校の家庭科室で足に何か当たって転がっていったので何かと思ったら、自分のパンツだったから心臓が止まるくらいびっくりした。おそらくエプロン袋からエプロンを取り出したときに自分のパンツが落ちて転がってしまったのだと思う。母が私の洗濯物をたたんだあとに間違えてパンツまでエプロン袋に入れてしまったのだ。
 足元に落ちた水色の花柄のそれは、ご丁寧にもたたんであって、まるくころんとした形だから転がりやすい。誰かの足で蹴られたら、あっという間に机の下という隠れ場を逃れて表沙汰になることは間違いない。
「なんだこれ!え、パンツ??」
「水色の花柄かよ!だせー!」
と笑う男子に
「これは誰のですか?」
と私の洗いたてのパンツを持って黒板の前に立つ先生。
晒されたパンツを前にクスクスと笑う女子たち…。
 …を想像して、ぞっとして冷や汗が流れた。もしこんな流れになったら、私は知らないとしらを切ろう。「誰のだろうねぇ」って一緒になって笑おう。そう決心して、まわりがっ授業課題のうどん作りに夢中になっているところひとりで机の下をそっとのぞいてみたのだった。

 調理机のちょうど真ん中あたりにある自分のパンツを確認して、シュールな気持ちになった。思いがけない場所に漂流してしまった私のパンツは、いつもより小さくみえて健気だった。可哀想…、いたいけな姿にあやまりたくなった。ごめんね、こんなところに連れてきちゃって…。そう思ったら、他の子とまざってパンツを笑い者にするなんていう裏切り行為はできないと思った。彼女はちょっとださくて野暮ったい柄だけれど、誰よりも深い位置で密着してきた私の同士なのだ。
 けれど、この子の存在がバレるのも時間の問題。誰かが足で蹴飛ばしてしまえばもう、あれよあれよという間に表舞台へ出されてスキャンダルになる。それはなんとしてでも避けたい。蹴られる前に取り戻さないと…。私は強行突破に出た。思いっきり足を延ばして学校の上履きで机の下いあるパンツを踏み潰したのだ。違和感ありまくりな態勢をキープして、パンツをつぶした状態で自分のもとまでたぐりよせたのだった。
 無事、私の足元までたどり着いたパンツは、上履きで汚されたせいかしょんぼりしていた。瞬時にそれを拾い上げ、エプロンのポケットに突っ込む。ポケットは変にふくれているけれど、とりあえずは奪還は成功した。みんなでうどんを練っている最中に
「りずむ、なんかポケットふくれてない?」と言われたけれど「あぁ……雑巾が入ってて」とびくびくしながらごまかした。
「え、エプロンのポケットに雑巾入れてるとか汚い…」
と言われたけれど、気にしない。私は水色の花柄の彼女の名誉を守ったのだ。

※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。