星エリナのほろよいハイボール(連載6)

星エリナのほろよいハイボール(連載6)


マグネットを部屋に飾る                                           

星エリナ

 海外に限らず旅行が好きな私。旅好きなのは母親譲りだ。私が高校生のころからだと思うが、母は時折、父と旅行に出かけた。それ自体はとてもいいことだし、二人が仲良く旅行へ行くことを娘としてとめたりなんかしなかった。ただ問題は気まぐれすぎるところだ。父とは計画を立てて一緒に仕事を休む手続きをしているようだが、娘の私に知らせてくれない。朝起きると机の上にノートのはしきれが置いてあって、『旅行行ってくるね。何かあったらお父さんの携帯に電話してね。』とだけ書いてあるのだ。最初はドッキリかと思ったこともあったけれど、もう慣れてしまった。さらに困るのは、この置手紙にはどこへ行ったのかもいつ帰ってくるかも書いてないのだ。
 こういうときはまったくもう、なんて溜め息をつくのだが、内心いつも嬉しかった。兄は友だちと遊んでくる、と言ってどこかへ行ってしまうから、私は一人暮らしな気分だったのだ。自分で料理をつくって自分で皿洗いをして自分で洗濯をして干して。そんな時の私の脳内はいつも将来の妄想だ。毎朝スーツを着て出社するサラリーマンの旦那と幼稚園でモテモテの息子がいる。頭の中で「おいしいよ」と言ってくれる彼らを妄想しながら料理を作っていた。

 私は海外旅行へ行くと必ずマグネットを買う。お土産屋さんにある手軽なものだからだ。ギリシャ、スペイン、ドイツで買ったマグネットが特にお気に入り。しかし、日本ではなぜかマグネットは冷蔵庫に大量にくっついている。せっかくおしゃれな風景の絵が立体的に描いてあるマグネットなのだから、部屋に飾りたいな。そうだ、壁にボードをさげて、そこに飾ろう。思い立ったら即行動。近所にある家具&インテリアショップへ行き、黒いメッセージボードを購入。白いボードマーカーも買ってマグネットのまわりにどこで買ったのかも書いた。これが意外とおしゃれ。
 私の部屋は和室で、畳と掘りごたつ、障子に和箪笥まである。そんな中に海外の風景がほんの少し混じった。うーん、なんだか変な感じかも。でもまぁいいか。だって私の部屋にはギターとアンプと高さ30センチのスピーカーが二つ、それにアロマキャンドルまであるのだから。

※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。