小林リズムの紙のむだづかい(連載24)


画・кёко

紙のむだづかい(連載24)


小林リズム

【無職が刺されたら】


 シーチキンの缶詰をクラッカーに乗せて食べている。隣にはハイボール。電話をしながらこれが今日の夕飯だと弟に言うと「ハイボールじゃなくてワンカップだったら、完璧にホームレスだね」と言われた。花も恥じらう22歳の女性に、なんてことを。
弟は理系の大学に通っている。小学校の算数の時点で躓いた私は、理系の人の頭がどんなふうにできているのか想像もつかない。よって、私たち姉弟は正反対の性格をしている。どちらかといえば思慮深く、どちらかと言えば人にあまり迷惑をかけず、どちらかといえば頭がいいほうが弟だ。でも常識人なのは私のほうだと自負している。
 私が「無職になった」と身内に打ち明けたとき、母はかなり驚き焦っていた。かねてから事情も知っていて「辞めたほうがいいよ」とは言っていたけど、本当にこんなに早く辞めるとは思っていなかったようだ。もちろん私だってこんなにすぐに無職になるとは思っていなかった。一方で父は「よかったじゃん」と無責任にも祝ってくれた。しかし弟には言っていなかった。それまで散々「営業成績あげて、ガンガン稼ぐから!そしたらご飯でもおごってあげるよ」なんて言っていた手前、無職になったなんてとてもじゃないけど…。
 ところがその弟が、珍しく私に電話をかけてきた。そして開口一番
「無職になったんでしょ?」
と直球できた。どうやら母に聞いたようだ。それにしても、もっと他に言い方はないのか。元気?とか、大丈夫?とか、落ち込んでいるかもしれない相手の様子をうかがうために、ワンクッションおくというデリカシーっていうものはないのか。
「そうだよ、おかげさまで無職だよ。なんかおごってよ」
「まあ、本当に厳しくなったら家賃一か月分くらいは貸してあげるよ」
と、ケチな弟にしては珍しく太っ腹なことを言ってくれた。彼なりに慰めてくれているのだろう。そして
「まあ、人生長いんだしさ」
と言われた。弟のほうが私より、2歳も若い学生のくせに。確かに人生は長そうだ。長い人生のうち、無職を経験してみるのもありなのかもしれない。ただし、それは生活できるということが大前提。あとはすべて結果オーライな気がする。いつかこの無職生活をネタにできる日がくればいいのだけれど。
 ところで今、私がどこかの誰かに刺されたりしたら「無職の女性が公園で倒れているのを発見されました」とかニュースで流れるのだろうか。えぇ、なんかイメージが暗いな。一人暮らしだから「家事手伝い」って表現されることもないだろうし。やだなぁ、ちょっとサービスして「綺麗な女性が」とかに変更してくれないかな。「綺麗な女性が公園で倒れている」って、なんだか花壇に囲まれているところに横たわっている白雪姫みたいなイメージで、すごく印象が良いじゃないの…!それが図々しいならせめて「若い女性が」とかさ…。そんな妄想をしながら、はたと気づいた。さすがに「住所不定無職」になる前に、なんとかしなくては。