小林リズムの紙のむだづかい(連載20)

画・кёко

紙のむだづかい(連載20)


小林リズム

【新卒入社した会社の経営者が教祖だった件】





「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの


という俵万智の短歌に酔いしれている。あいにく、私が飲んでいるのはハイボールだし、自宅でひとりというまったく正反対の現実にいる。おまけに無職になった私は「あー、だれか嫁さんになれよとか言ってくれないかなぁ」なんて都合の良い妄想に浸っている。こうなったら「婿さんになれよ」とでも懇願するか…と、もうただのヤケ酒の酔っ払い。これからどうなるんだろう、とか、あぁ、もう人生オワタ!なんて真剣に考えられないあたり、相当現実逃避をしていると思う。
 新卒入社した会社を早くも退職した理由は、経営者が教祖だったからだ。自分でいうのもなんだけど、インターンが始まった2月から私は遊びにも行かず、結構真面目に働いていたし、それなりに社会人として頑張っていた、のにこの有様。人生ってままならない。


「経営者が教祖だったから会社辞めたの…」
と言ったときの人のリアクションはいろいろある。「そっか、辛かったね…」と同情してくれる友人もいれば、「なんで入社する前に気付かなかったの?」と呆れる身内もいる。そのなかでも、やっぱり一番のリアクションだったのは、お世話になった大学の先生方だった。「先生、あたし会社辞めちゃいました」と電話したとき、私は「大丈夫?」とか「がんばれ!」と言ってくれることを期待していた。が、先生は「…あはは!なにそれー!!おもしろーい!!」とひたすら受けていたのだった。自分の母校がどういう大学だったかを思い出させてくれた瞬間だった。


 経営者が教祖だから辞めたのだというと、たいていの場合「まあ、会社なんてどこもそんなもんだよ」なんて言われる。そこには、社長がワンマンだったり、理不尽なことを言われるのが社会人だよ、そんなことにも耐えられないなんて世の中なめてるんじゃないの、というような意味も十分に含まれている。確かに私は世の中をなめているかもしれない。「まあ、なんとかなるでしょ」という適当さと勢いでここまで生きてきたことも否めない。けれどそれを自覚したうえでも、私がいた会社は異様だったのだ。