小林リズムの紙のむだづかい(連載35)

清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。


ここをクリックしてください。清水正研究室http://shimi-masa.com/


四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp

http://www.youtube.com/user/kyotozoukei?feature=watch




紙のむだづかい(連載35)


小林リズム

【君、ただの負け犬なのにね】

「君は今後何をやるにしても冴えなくて平凡以下の人生を歩むと思います。実家に戻るのがオチでしょう」
 唐突にそんなメールが届いた。この間、派遣登録をしに行った会社の人からだった。「書く仕事がしたくて、でも食べていかないといけないから家に持ち込まないような仕事がしたいなぁと…」と話している面談中にも薄ら笑いを浮かべて「そんな甘くないよ?」と終始嘲笑していた。これが世間一般のリアクションなんだろうなと思った。社会人経験ほぼなし。目立った実績もなし。これといった取り柄もなく、すぐに会社を辞めた若いだけの女。バカにされるのは仕方ない。そして彼はそんな私のことがとにかく気に入らなかったようで、ご丁寧に電話番号からメールを送ってきたのだった。
「明日にでも田舎に帰った方がいい(笑)君、ただの負け犬なのにね(笑)」
「だって君は今ただの無職の大人だから(笑)恥ずかしくないの?(笑)可哀想に」
なんでよく知らない人にこんなことまで言われないといけないんだろう…と唖然とした。あまりにもわからなすぎて、これってすごくわかりにくい新種のアピール?あたしに興味があるとか?…と勘違いしてしまったほどだった。
 彼の言うように「ただの無職の大人(笑)」で「可哀想」な私は、冴えない平凡以下の人生(…ってどんな人生かわからないけど)を送るのかもしれない。そうだとしても、職を求めて訪れる人をバカにして見下してきたのが彼の仕事スタイルだとしたら、私は無職にせよ今の生活で心からよかったなぁと安堵するのであった。

 無職になってから、いろんな大人にいろいろなことを言われた。世の中の厳しさを延々と語る人もいれば、「夢みちゃってんの?」と鼻で笑う人もいた。そういう大人を前にしたとき、私は悔しさに歯噛みをすることしかできなかった。それは今まで私自身が、できあがった物差しで、レールからはずれた人たちを測っていたからかもしれない。
 それにしてもここ数か月で、教祖会社を筆頭に、ずいぶんと社会人の大人に騙されたり裏切られたりバカにされたりした。スナックで手を掴んで触らせようとした人、見て見ぬふりをして通り過ぎようとした人、いざというときに逃げ腰になる人、かけられた言動の数々は今でも私の頭のなかに刻み込まれていて、払拭できない。でも、「応援してるよ」とか「楽しみにしてるから」という言葉をかけてくれたのも、大人だった。年を重ねていくことに魅力を感じることができたのも、そういう大人がいてくれたからだ。…まあ、22歳なんて一般的にはもう「大人」と呼べる年齢で、大人に騙されただの裏切られただの言っていられないけどね。「大人は汚いです!」なんて言えるほど自分が綺麗なわけでもないしね。だからこそ、こうなりたいと思える大人が身近にいるのってすごく救われることなんだなぁと、あわよくばそういう大人になってやろうと、心の中で誓ったのだった。