清水正の『悪霊』論 坂下将人 連載1

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     清水正ドストエフスキー「悪霊」の世界』(Д文学研究会 1990年7月 限定100部非売品)


連載1

清水正の『悪霊』論

坂下将人

 

清水正ドストエフスキー体験』 (1970)

 ドストエフスキーは作品を通して人間の精神を究極的に追求し、「「神」の存否」を読者に問う。清水は、ドストエフスキーと自分自身とを重ね合わせる方法で、ドストエフスキーの文学作品を「体験」的に理解し、考察を行っている。清水は、作品の考察を行うにあたって、「神」と「作者」、「神」と「登場人物達」の「関係性」を常に意識しつつ、作品と登場人物達の本質を剔抉する。本書では『悪霊』の執筆経緯並びに執筆動機に関する論及が具体的になされており、主要登場人物である「ニコライ」、「ステパン」、「ピョートル」、「キリーロフ」、「シャートフ」に対する考察が行われている。従来の『悪霊』研究を深化・前進させた本書は、後に上梓される『悪霊』論三部作(『『悪霊』論 ドストエフスキーの作品世界』、『ドストエフスキー『悪霊』の世界』、『『悪霊』の謎―ドストエフスキー文学の深層―』)の「萌芽」であり、「原点」である。

 清水は本書において「ロシア革命運動の歴史を振り返って見れば、ロシアの神はギリシャ正教でもなければ、スラブ主義でもなくマルクスレーニン主義そのものである。つまり、ロシアにおける新しい神は、虚無主義者、社会主義者等の長い闘争の結果得られたもの」(注 1)であると述べている。

 なお、本書に収められている論稿は、翌年に「増補改訂版」として出版された『停止した分裂者の覚書―ドストエフスキー体験』、並びに『清水正ドストエフスキー論全集2 停止した分裂者の覚書』(注2)にも収録されている。

 

1  清水正ドストエフスキー体験』 p.65。

2  清水正清水正ドストエフスキー論全集2 停止した分裂者の覚書』 D文学研究会2008。

清水正著『ドストエフスキー体験』清山書房 1970年 限定500部
右カバー表紙 左表紙 装丁と絵・清水正


坂下将人(プロフィール)

日本大学大学院芸術学研究科博士後期課程修了。ドストエフスキー研究家。日大芸術学部文芸学科非常勤講師。論文・エッセイに「『悪霊』における「豆」」(「江古田文学」107号)、「ф・м・ドストエフスキー研究の泰斗」(「ドストエフスキー曼陀羅」特別号)、「清水正著『ウラ読みドストエフスキー』を読む」(『ドストエフスキー曼陀羅』)、「ф・м・ドストエフスキー『悪霊』──「鳩」に関する一考察」(「藝文攷」27号)、「ф・м・ドストエフスキー『悪霊』──先行研究一」(「清水正研究」2号)その他。