動画撮影は2021年9月8日・伊藤景
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ソーニャの部屋
──リザヴェータを巡って──(連載18)
〈もうおしまいになった人間〉ポルフィーリイを巡って
──「回想のラスコーリニコフ」の頃を回想して──(3)
ポルフィーリイはラスコーリニコフを「信仰とか神とかを見つけさえすれば、よし腸を引き出されようと、じっと立ったまま笑みをふくんで、自分を苦しめる連中をながめている、そういう人間のひとり」と思っている。ポルフィーリイは、ラスコーリニコフは予め神によって〈命〉(жизнь)を準備された者であるから、その〈命〉に飛び込めばいい、すなわちイエスの〈甦り〉と〈命〉を信じて永遠の命を獲得し、皆から仰ぎ見られる〈太陽〉(солнца)になりなさいと言っている。まさに大胆な預言者的な物言いで、ポルフィーリイの言葉はラスコーリニコフのみならず、読者をもとまどわせ驚かせる。
どういうわけで「もうおしまいになった人間」ポルフィーリイが預言者的な言葉を発せられるのか。この点に関して言及する前に、この〈おしまいになった〉という言葉にも触れておきたい。ポルフィーリイは二回ほどこの言葉を使っているが、米川正夫は二回とも「もうおしまいになった人間です」と訳している。『罪と罰』を米川正夫訳だけで読んでいたので、わたしは「もうおしまいになった人間に復活の可能性はあるのだろうか」という疑問をずっと抱いていた。この疑問は失恋で絶望の淵に佇んでいたわたしにとって大きな問題でもあった。ところが原典にあたって、この時も衝撃を受けた。
最初の「わたしはもうおしまいになった人間です」(525)は〔Я поконченный человек〕(ア・352)だが、二回目のそれは〔уж совершенно поконченный〕(ア・352)で、訳せば「もう、すっかりおしまいになった」人間ということになる。〈すっかり〉(совершенно)が付いているかいないかはわたしにとって重要であった。つまりもはやポルフィーリイには〈復活〉の可能性は全くないということ、イエスの〈命〉(жизнь)に飛び込んでいくことはできない存在であることを認めざるを得なかった。江川卓は原典に忠実に「もうすっかり終わってしまった人間なんです」(下・221)と訳している。因みに、工藤精一郎は「もう完全に終ってしまった人間です」(新潮文庫)、池田健太郎は「もうすっかりおしまいになった人間です」(中公文庫)、北垣信行は「もうすっかり人生をおえた人間ですよ」(講談社)、小泉猛は「もう完全におしまいになってしまった人間なのです」(集英社)と訳して概ね江川卓訳と同じである。ところが『罪と罰』をロシア語原典から最初に翻訳した中村白葉は「もう薹の立つた人間です」(新潮社)と訳し、また米川正夫に次いでドストエフスキー全集の個人訳を完成させた小沼文彦は「もうこの世にぜんぜん用のない人間です」(筑摩書房)と訳している。
中村白葉訳、小沼文彦訳で『罪と罰』を読んでいたら、ポルフィーリイはわたしにとって重要な人物になりえなかったかもしれない。「薹のたつた」「用のない」という形容では、絶望の淵に佇んでいたわたしの魂をつかむことはなかったにちがいない。
清水正著『ウラ読みドストエフスキー』を下記クリックで読むことができます。
撮影・伊藤景
「清水正・批評の軌跡──ドストエフスキー生誕二〇〇周年に寄せて」展示会が9月1日より日大芸術学部芸術資料館に於いて開催されています。
展示会場の模様を紹介していきます。
※学生の入構制限中は、学外者の方の御来場について制限がございます。
詳細のお問い合わせにつきましては、必ず下記のメールアドレスにまでご連絡ください。
yamashita.kiyomi@nihon-u.ac.jp ソコロワ山下聖美(主催代表)
目次内容は
はじめに──二〇二一年〈清水正の宇宙〉の旅へ──
ソコロワ山下聖美(日大芸術学部文芸学科主任教授)
停止した分裂者の肖像──清水正先生の批評について──
上田薫(日大芸術学部文芸学科教授)
動物で読み解く『罪と罰』の深層「江古田文学」101号から再録
清水正・著作目録
※購読希望者は文芸学科研究室にお問い合わせください。
「清水正・批評の軌跡」web版(伊藤景・作成)を観ることができます。清水正•批評の軌跡web版 - 著作を辿る
「林芙美子に関する著作」10冊と監修した「林芙美子の芸術」「世界の中の林芙美子」
下記をクリックしてください。
六月一日から開催予定だった「清水正・批評の軌跡」展示会はコロナの影響で九月一日から9月24日までと変更となりました。
会期:2021年9月1日(水)~9月24日(金)
会期中開館日:平日のみ。午前9時30分~午後4時30分(完全予約制)
※ご来場の際は事前に公式HP(https://sites.google.com/view/shimizumasashi-hihyounokiseki)にご確認ください。
九月一日から日大芸術学部芸術資料館に於いて『清水正・批評の奇跡──ドストエフスキー生誕二〇〇周年記念に寄せて──』展示会が開催される。1969年から2021年まで五十余年にわたって書き継がれてきたドストエフスキー論、宮沢賢治論、舞踏論、マンガ論、映画論などの著作、掲載雑誌、紀要、Д文学通信などを展示する。著作は単著だけでも百冊を超える。
下記の動画は2016年の四月、三か月の入院から退院した直後の「文芸批評論」の最初の講義です。『罪と罰』と日大芸術学部創設者松原寛先生について熱く語っています。帯状疱疹後神経痛に襲われながらの授業ですが、久しぶりに見たら、意外に元気そうなので自分でも驚いている。今は一日の大半を床に伏して動画を見たり、本を読んだりの生活で、アッという間に時が過ぎていく。大学も依然として対面授業ができず、学生諸君と話す機会がまったくない。日芸の学生はぜひこの動画を見てほしい。日芸創設者松原寛先生の情熱も感じ取ってほしい。
https://www.youtube.com/watch?v=awckHubHDWs
ドストエフスキー生誕200周年記念お勧め動画。
まだ元気な頃の講義です。
ジョバンニの母親は死んでいる、イリューシャ少年はフョードルの子供、など大胆な新説を開陳しています。ぜひご覧ください。
銀河鉄道の夜&カラマーゾフの兄弟 清水正チャンネル - YouTube
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新刊書紹介
清水正編著『ドストエフスキー曼陀羅 松原寛&ドストエフスキー』
『清水正・ドストエフスキー論全集』第11巻(D文学研究会)A5判上製・501頁。
購読希望者はメールshimizumasashi20@gmail.comで申し込むか、書店でお求めください。メールで申し込む場合は希望図書名・〒番号・住所・名前・電話番号を書いてください。送料と税は発行元が負担します。指定した振込銀行への振り込み連絡があり次第お送りします。
下記の動画は日芸文芸学科の専門科目「文芸批評論」の平成二十七年度の授業より録画したものです。 これを観ると清水正のドストエフスキー論の神髄の一端がうかがえます。是非ごらんください。
https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk