「畑中純の世界」展を観て(連載14)

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畑中純の世界」展を見て
松井亜樹


 私はこの「畑中純の世界」展で、初めて畑中純さんの作品を目の当たりにしました。畑中純さんのことは全然知らなかったし、興味もあまり無かったので正直なところこの展示にはそこまで期待していませんでした。しかし行ってみると少し小さなスペースに、原画、版画、漫画などがぎっしりとあって、とても見応えがありました。そして私はこの「畑中純の世界」にまんまと引き込まれることになりました。
 順路はまず版画のゾーンから。この版画が私はとても気に入りました。細かく、そして力強いなと思いました。宮沢賢治の本の版画が多くみられ、文字までも版画になっているものもあり、文字が一緒に彫られているものは初めて見たのでとても驚きました。それと、畑中純さんの版画は可愛らしいもの(どんぐりと山猫など)もたくさんあったり、見ていてとても「懐かしい」ような、穏やかな気分になる作品が多かったです。この版画の中で私が特に気に入ったのは「風の又三郎」と「銀河鉄道の夜」でした。「風の又三郎」は横長の版画に文字も一緒に彫られていて、季節やキャラクターで彩られていました。とても綺麗だったしイメージにぴったりでそれにも驚きました。真ん中にいるマント?を羽織ったキャラクターもなんだか魅力的に感じてしまいました。そして「銀河鉄道の夜」。この作品は四枚に分かれていて、とてもインパクトがありました。なんといっても汽車の迫力と星達の輝きが美しく、見ていて溜息が出るような作品でした。本になっているものも是非手に取って見てみたいなと思いました。
 次からは漫画と一枚絵のゾーンに。漫画は「オバケ」などから始まりました。この辺の絵を見ていて思ったのですが、「この人、絵がすごく上手だったんだ。」と気付かされました。版画とは違い細い線でなめらかに描かれていたそれらの絵は、とても上手で綺麗でした。漫画も細かく描きこまれていました。「オバケ」が数ページ展示されていたのですが、その数ページでも面白そうだなと思えました。大きな妖怪のようなものが出てきたりしていて迫力がありました。「まんだらやの良太」の絵もたくさんありました。温泉旅館の一人息子「良太」が温泉街という世界で生きていく話なのかなと見ていて思いました。たくさんの人が温泉に入っている絵があったのですが、そこには老若男女が色々やりながらもひとつの温泉に入り仲良くしている姿があり、古き良き日本なのかなとも思えました。「性」の要素は入っていても、嫌な感じはなかったです。馬鹿らしくて可笑しいし、そこから生まれるストーリーがあるからこそ面白くなるということが伝わってきました。山がお尻に見える絵も見ていて笑ってしまいました。
 展示されていた絵には、ファンタジーなものが多くありました。森の中に女の人が一人立っているものなど。とても綺麗でした。そこにも「性」の要素が見え隠れしており、まさに「大人のファンタジー」なんだなと思いました。カラーの絵は色使いがとても綺麗でした。特に海辺に男女が立っている絵が印象的でした。夜の海、空には満月が浮かんでいるのですが、それが濃い黄色で彩られていて青い海とのコントラストが美しく、魅力的でした。あとは小学生の男女の絵があったのですが、それは小学生の頃の男女のもどかしさなどを思い出してとても懐かしい、そして甘酸っぱい気持ちになりました。
 展示の中には畑中眞由美さんの肖像画もありました。やわらかに描かれていて、愛情を感じました。肖像画の眞由美さんも微笑んでいて、幸せな気持ちにさせられる絵でした。そしてやっぱり絵が上手くて見とれてしまいました。
 畑中眞由美さんらがお話に来られた授業の回は、就職活動で参加出来なかったので、それがとても残念です。畑中純さんの魅力を、家族の視点からお話頂けるのは貴重な体験になったはずだなあと思いました。先週の授業で先生と他の生徒さんがお話していた「親がああいう漫画家だったら、子供の頃は嫌だと思ってしまう。」という話。たしかに女性のお尻などが描かれている漫画を父親が描いていたら嫌だとは思いますが、あんなに素敵な版画もあったので「あれを父親が描いていたら羨ましいな。」と思いました。
 「畑中純の世界」展。この展示を見ることが出来てとても良かったです。全体を通して、温かみのある作品が多かったなと思いました。たくさんの絵が展示されていてとても見応えがあり、じっくりと見ることが出来ました。漫画もかなり良かったのですが、版画に本当に感動しました。今まで見た版画の中で一番良かったし、版画で感動したのも初めてでした。見ることが出来て、そしてこんな作品に出会えて本当に良かったです。これからも、授業で触れる作品達をもっと知っていきたいなと思いました。ありがとうございました。