畑中純の魅力(連載3)(日大芸術学部文芸学科「雑誌研究」・2015.7.10)




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畑中純の魅力(連載3)日大芸術学部文芸学科「雑誌研究」・2015.7.10)

講演者・畑中眞由美(畑中純事務所代表)
司会進行・清水正(日芸図書館長・文芸学科教授)

参加者・日野日出志(実存ホラー漫画家・文芸学科講師)/犬木加奈子(ホラー漫画家・文芸学科講師)/畑中元(長男)/畑中沙代(次女)/秋山江梨(三女)/「雑誌研究」「マンガ実習」受講者

子供たちから見た畑中純


清水 では、今日はせっかく眞由美さんのお子さんもいらっしゃっていますので、お子さんから見た純さんについて、どういうお父さんだったのか聞いてみましょう。では次女の沙代さんいかがですか。
沙代 次女の沙代と申します。よろしくお願いします。私から見た父は、よく子どもの頃、いろんなところに連れて行ってくれたなって。海とか川とか、あと小倉にもしょっちゅう連れて帰ってくれて。それから父は家にずっといてくれたので、私はすごく安心感がありました。何か悩み事があるとき、夜中まで眠れなくてどうしようどうしようって悩んでいるときにも父がずっと起きて仕事をしてくれているから安心感があって、父の仕事部屋に行って色々相談したり。父の前でもう何回泣いたかわからないぐらい。だから、すごく大好きな父でした。一緒によくカラオケに行ったんですけど、(涙をこらえきれない沙代さん)

畑中 カラオケ大好きでした。「カラオケの誘いは断らんぞ」っていつも言っていました(笑)。
沙代 カラオケに誘うとすごく嬉しそうに「一緒に行くぞ」って一緒に行ってくれたのがすごく嬉しくて。もっと色々話したいことがあったんですけど。……私も絵を描くのがすごく好きで、よく父の真似をして絵を描いていて、でも父はやっぱりプロだから、なかなか私の絵を褒めてくれなくて、「もっとこうした方がいいよ」「こういう絵を描いた方がいい」っていうアドバイスをすごくしてくれて、でも一度でいいから父から絵を褒めてもらいたかったなあっていう気持ちがすごくあります。いまは父が漫画家をしていたっていうことは私の誇りだし、本当にいい父親だったとも思います。今日の授業をきっかけにもし父の作品を、畑中純っていう漫画家を知るきっかけになってもらったらすごく嬉しいなって思います。他の作品もすごく私は好きなので、若い方にも読んでもらいたいなってすごく思います。(涙をぬぐって)すみません。今日はありがとうございます。
清水 私も死んだら娘に泣いてほしい。残念ながら娘がいないんだけどね。でもわかるでしょう? いまのように、純さんを語るには涙なしには語れないような深い絆があるんですよ。美しい関係ですよね。次女の方が泣かれたので三女の江梨さんは泣かれないとは思うんですが、父の思い出を語ってください。何でもいいです。「畑中純の魅力」というテーマを念頭に語ってください。

江梨 父は自分にとってすごく偉大な存在でした。「漫画家である父」と「家族を支えてくれる父」ということですごく尊敬できる人でした。川遊びとか、ずっとみんなで遊ぶことが大好きだったのでそういう思い出とかも共有できて、楽しい記憶がいっぱいあります。叱られた記憶とかもなく、父の思い出といえば「一緒に遊んでくれる楽しい面白い人」「面白みのすごくあるお父さん」だったなって思います。
畑中 末っ子は特別ですよね、もうべたっ可愛がりです(笑)。
江梨 末っ子です(笑)。他の兄姉は仕事の邪魔をしなかったらしいんですけど、私は作品の上に牛乳こぼしたりとか。でもやっても怒られないというか、本当に優しく育ててくれました。そういう父の存在を支えてきたのは母なので、私にとって二人は、「こういう夫婦になりたいな」って心から思えるいい夫婦だなって思います。本当に母あっての父なので、母がいなかったらここまでいまなっていない気がします。母のことばかり言っちゃったけど、二人の支え合う感じはすごく憧れます。だって貧乏人からここまでになるってすごいことだなあって。身近にこんなすごいことが起きているっていうのは本当にありがたいことだと思います。なので、二人の子に生まれて本当によかったなって思います。
清水 素晴らしいですね。まあ娘は大体そう言うだろうと思いますからね。今日は一人、長男の方が来ておりますから、元さんがね。僕は二人息子がいて一人は亡くなっちゃったんだけど、一人が元さんと同じなんですね。一九七八年七月十日生まれの午年。僕の息子がいま三十七歳なんだけど、息子との会話なんて今までで一分にも満たないぐらいなんだよね。だから男の子が見た父親っていうのはやっぱりまたちょっと違うだろうということで、だからいまの次女沙代さん、三女江梨さんのお話を踏まえた上で、長男元さんが父・畑中純をどう思っていたのか聞いてみましょう。

  長男の元です。みなさん、今日はありがとうございます。みなさんがさっきから何をメモされているのかがすごく気になるんですけれども、何かお役に立つことがあるのかなあって思ったりしています。漫画家の息子をやっていました。いま思えばすごいことなんだろうなと思います。この間死んじゃいましたけれども、死んじゃった後もこうやって作品が残って名前が残って、みなさんの大事な授業の時間に取り上げてもらえているなんて、こんなに光栄なことはないなっていうふうには思っています。息子からすれば漫画家の親父っていうのは非常に迷惑な存在で、なまじ名前が外に出てしまっているっていうのが僕にとってはすごく扱いが面倒くさいというか。特に父が『まんだら屋の良太』を描いていたのは僕が子どもの頃で、「週刊少年ジャンプ」の全盛期でした。僕は『キン肉マン』とか『キャプテン翼』とか『ドラゴンボール』とかをリアルタイムで毎週楽しみに読んでいる子どもだったわけで、そんな子どもがこんな漫画を読むわけもなく、「父親の漫画だから手に取らないんでしょ」とかも言われるんですけど、「いや、普通に本屋にあってこれ手に取らないよなあ」っていう漫画ですね。だからさっきみなさんの感想とか質問とかを聞いていて「すごいなあ」って、「僕の何万倍もよく読み込まれているなあ」って。僕はやっぱり『まんだら屋の良太』は見られないんです。読めない、読み込めないというか、拒否反応というか、汚いし、下品だし。僕が一番好きなのは『めぞん一刻』とか『MASTERキートン』とか。ああいうのが好きなので、『まんだら屋の良太』を一緒のようには読めないなあって。ごめんなさい、本当に。(教室内から笑いが起こる)だから漫画家の魅力っていうのはあんまりわからないです。(眞由美さんに向かって)仕事をしているところにも、あんまり近寄ったこともないですよね?
畑中 でもちょっと消しゴムを手伝ってくれたりしたことが、一回だけあったよね。
 あ、一瞬、一回だけ消しゴムかけをやったことはあるんですけど、でも一回で終わったし。というわけで僕は知らないんです、畑中純っていう漫画家を、全然。だからむしろ清水先生とかがどう評価されているのかということがすごく気になって、どこに魅力があるのかということはぜひ聞いてみたいなって。そこから何か見つかるものがあるのかなあ。でも好きにはならないと思います。無理です。
清水 はい、わかりました。これでおわかりいただけたとは思いますけれども、娘さんと息子さんではやっぱりちょっと違いますよね。父親に対する対応の仕方というか、感情も全然違うんですよ。次女の沙代さんは話の途中で胸を詰まらせ涙を流す。長男の方はどこがいいのかわからない。


清水正の講義がユーチューブで見れます。是非ご覧ください。
https://youtu.be/KqOcdfu3ldI ドストエフスキーの『罪と罰
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp 『ドラえもん』とつげ義春の『チーコ』
https://youtu.be/s1FZuQ_1-v4 畑中純の魅力