畑中純の魅力(連載2)




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畑中純の魅力(連載2)日大芸術学部文芸学科「雑誌研究」・2015.7.10)

講演者・畑中眞由美(畑中純事務所代表)
司会進行・清水正(日芸図書館長・文芸学科教授)

参加者・日野日出志(実存ホラー漫画家・文芸学科講師)/犬木加奈子(ホラー漫画家・文芸学科講師)/畑中元(長男)/畑中沙代(次女)/秋山江梨(三女)/「雑誌研究」「マンガ実習」受講者

学生たちの感想


清水 (学生に向かって)『まんだら屋の良太』を初めて読んだ感想を、述べてください。
学生1 やっぱり日常を描いた話じゃないですか。でも日常といっても平坦な日常が続いているわけじゃなくて、たとえば情事とかやくざがらみの人とかちょっと刺激の強いこととか後ろ暗いことがあるから、いわゆる日常を描いた小説とかとはちょっと違うと思いました。でも普通に人間が現実で生きていればそういう日の光を浴びない領域のことだって何かしら経験するはずだなって思って。そういう意味で、ちょっと陳腐な言い方になっちゃいますけど、新鮮味を感じたし、人間味をすごく感じました。
畑中 ありがとうございました。小倉弁っていうのは読みにくくなかったですか? 台詞まわしとか。
学生1 確かに、やり取りはちょっと読みづらいと言えば読みづらかったですが、別に文章の意味や内容を事細かに理解しようとは思わなくて、小倉弁のやり取りそのものが僕は楽しかったです。
畑中 そうなんですか。ありがとうございます。
清水 『まんだら屋の良太』をいまの若い人たちがどういうふうに読んだかということをさらに聞いてみましょうか。
院生1 私は、まず九鬼谷温泉っていう場所が面白かった。小倉は町からそんなに遠くない場所にあるのにそこだけぽこっと抜けたかのように世界が完成している。あと色々読んでいくと九鬼谷っていうところは文学的な要素が入っていてものすごく面白かった。これが作品の背景について抱いた感想です。まだ私も完全に全部読んではいないんですけど、一つだけ気になるところは、良太は芸者さんとは色事をするのに、月子ちゃんと久美子ちゃんにたいしては必ず一線を守るとこですね。良太は、相手がいざ自分のテリトリーに入ってくるとすごく優しかったり照れ屋だったりする。これは、純さんそのものじゃないかと思ってちょっと気になったんです。
畑中 そうですね。設定が十七歳とか十八歳ぐらいなんですね。それはそれが子どもでいられるのギリギリの年代で、かつ大人としての責任はまだ果たさなくてもいいかなっていう微妙な年代であるということで、そういう年代に設定しているんですよね。それから月子っていうのは自分の永遠のアイドルであって、心情的にはもう夫婦のような感じがあるんですね。だけどセックスはしないっていう。それはずっと最後まで貫いています。
院生1 奥様がモデルだったんですか? 月子って。
畑中 それはよく言われるんですよね。ずっと一緒にいたからなんとなく似たような顔を描いていたのかも知れないですけど、最初のうち本人は「違う!」って頑なに否定はしていたんです。「作家っていうのはキャラクター全部が自分なんだから奥さんがモデルだなんてありえないんだ」って言っていたんです。だけどみんなから「似てますよね?」「似てますよね?」ってあんまり言われるものだから最後の方はもう「そうです」とかって言っていましたけどね(笑)。
学生2 奥様が『まんだら屋の良太』で一番好きなお話とかキャラクターってありますか?
畑中 私もしばらく読んでいないので思い出して(笑)、私は実は八話からアシスタントをやったんですね。それまでは純さんがまったく一人で描いていたんですけど、どうしても週刊でまわらなくなって「手伝ってくれ」って言われて。私はまったく漫画に関しては素人ですし、ペンを持つのも初めてでした。枠引きをしたり消しゴムをかけたりベタ塗りとかをしていました。だからやっぱり一番初めに手掛けた「谷間の百合」っていうお話が一番私の中では印象が深いですね。好きなキャラクターは特にいないけど、百合奴姉さんっていう芸者さんがいるんです。良太と月子とまわりのお友達っていうのは五十三巻の間にほとんど変わることはないんですけど、百合奴姉さんだけはどんどん太っていくんですね。私も太っていったんです(笑)。だからちょっと思い入れがありますね。

学生3 実際に温泉とかモデルになったところに一緒に行かれたりはしたんですか?
畑中 行きましたね。温泉評論家みたいにたくさんは行っていないんですけど。私、二十代の頃に子どもがどんどん生まれたので。二十四歳、二十六歳、二十八歳、三十一歳で四人子どもを生んじゃったんで。漫画を手伝いながら育児に明け暮れる毎日だったんです。だけど、純さんもやっぱり「取材がしたい」って言うんで子どもを連れて行きましたね、あっちこっち。一番最初に行ったのが群馬県川原湯温泉。いまダムに沈んでいるんですよね。あそこと深川温泉。結構あっちこっち色々行きましたね。

学生4 『まんだら屋の良太』を読んでいて思ったんですが、純さんって主人公の良太と似ているんじゃないかなって。


畑中 もちろん自分が作ったキャラクターから自分が影響されるっていうのはあると思うんですよね。だから良太を描き始めて小倉弁がきつくなったとか、体型も太って良太みたいになってきたとかっていうのはありましたね。だけど中身は、みんな良太みたいな人を想像して来てくれるんですけど、彼はお酒も飲めないし、煙草は吸うんですけど、すごく恥ずかしがり屋で、良太のように誰とでも付き合うような感じではないんですよ。だから自分の憧れを描いたというのはあったかも知れないですね。
清水 家では純さんとは小倉弁で話していたんですか? 人が来ると標準語?
畑中 はい。だから怪しいですよ。標準語はイントネーションがわからなかったりするので私もちゃんと喋れないですよ。うちの子どもたちはバイリンガルです。小倉弁と標準語を喋る。

学生5 内容っていうよりお二人の関係についてなんですけど、十五歳で出会われてお付き合いされて純さんが亡くなるまで、今までずっとお二人で一緒にいたと思うんですけど、その間って二人の愛はずっと続いているわけじゃないですか? その長く続く秘訣っていうのが知りたいです。
畑中 清水先生は「永遠の伴侶」だとか色々言ってくださるんだけど、本人同士はそんなに意識はしていなかったと思いますね。私たちは四年半ぐらい遠距離恋愛だったので、私は一緒に暮らせて「わあ、嬉しい!」って最初は思ったんだけど、朝起きてから寝るまで一緒なんですね。それをママ友なんかに言うと「よくそんな朝から晩まで旦那と一緒にいられるわね! 息が詰まるでしょ!?」とか言われるんだけど、最初から三十年ぐらいずっとそうだったからそんなに私は息は詰まらなかったですね(笑)。わりと淡々としていたと思います。そんなにラブラブ! ということでもなかったですよ(笑)。
学生5 いまお話しされているご様子からも愛が感じられて、すごく素敵だなあと思います。さっき手紙のお話をされていたときに「自分がもし死んだらお棺に詰めてほしい」って仰っていて本当に純愛だなあって思いました。

学生6 『まんだら屋の良太』を読んでいて、漫画なんですけどどこかで小説を読んでいる感じがありました。ザ・漫画っていうよりはちょっと小説っぽい文学的な要素も入っていて、やっぱり温泉と文学、旅館と文学っていうのは切っても切り離せないというか、結び付きが強いんだなっていうのがあって。純さんは小説を書くとか絵画を書くとかそういう芸術的なことを、ずっと漫画以外でも趣味でされていたのかなと思いました。
畑中 小説はもう大好きで、畑中純の頭の半分には日本文壇史が入っているんですね。丸暗記しているの。そしてもう半分には日本のやくざの構図が入っている。そんな人です。だから好きで小説を読んでいるんですけどそれが身になっているし、絵も大好きで油絵とかは下手なんですけど水彩画、イラスト類はずっと描いていましたね。それは漫画連載をしていても締め切りが終わると絵を描くというような感じで。ある程度の歳になってからは春画ばっかり描いていました。嬉しそうににやにやしながら。だから春画の類が山ほどあるんです。いっぺん春画展やりたいなあとは思っていますけどね。
清水 その際は、ぜひ日芸で。
畑中 ありがとうございます。

学生7 読んでいてすぐにそういう場面が出てくるじゃないですか。それに結構、ずんって印象を受けちゃった部分があるんですけど。結構そのシーンも激しいようなシーンじゃないですか。それで失礼かもしれないんですけど、眞由美さんと純さんも結構激しかったのかなと。

畑中 大丈夫よ。あははは。それを子どもたちの前で言えと(笑)。なんていうのかな、妄想の世界ですね。うふふふふ。若い頃はむっつりスケベでしたね。だんだん年を取るとおおっぴらに出すようになりましたけど。年を取ってからはグラビアの切り抜きが大好きで、それを一生懸命百均のファイルに入れてにやにやしているんです。それから亡くなったあともエッチビデオがいっぱい出てきて大笑いしましたね。妄想の産物です。


学生8 さっきのお話にあったんですけど、脳内の「半分には日本のやくざの構図が入っている」って仰っていたじゃないですか。実際にやくざ的なところってありましたか? 喧嘩とかしましたか?
畑中 全然。すごく臆病で気が小さくて心配性で、そういうことは全然自分じゃできないんです。体は結構大きかったですけど、喧嘩とかは自分からしたようなことは一度もなかったですね。夫婦喧嘩でさえ手を上げたことはないですね。「仁義なき戦い」が大好きで、本当にずうっといつもいつも観ていましたね、ビデオを。子どもたちも、ジャンジャン、ジャンジャン、ジャンジャン、ジャンジャン、っていうのが耳に付くぐらいね(笑)。

院生2 作品を読んで文学的な印象を覚えました。畑中純さんは宮沢賢治の「春と修羅」に強く影響を受けたと聞きましたが、清水先生は宮沢賢治を研究されていて「宮沢賢治にとって一番重要な数字は九」と仰っていますが、九鬼谷温泉にも九というのが表れているなど宮沢賢治の影響を広く感じたんですけれども、どのように純先生は宮沢賢治を解釈していたのか、眞由美さんに「こうやって読むんだよ」とか仰っていたかなと思いまして。
畑中 「こうやって読むんだよ」とかいうふうなことはなかったですけど、しつこいというか、好きなものはすごく好きでしたね。いつまでも好きでした。宮沢賢治も好きで、ただ彼の場合は屈折しているというか全面的に大好きとは言わないんですね。宮沢賢治に対しての批判はすごくありました。宮沢賢治の全部が好きなんじゃなくて、宗教の話はどうかわからないけど、法華経のお布教をするために童話を書いたりすることに批判的なところはありましたね。だけどファンタジーとかイーハトーブっていうワールドはすごく好きでしたね。だからそれをもとにして九鬼谷温泉郷っていうのを自分で作り上げたと思うんですね。




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