星エリナのほろよいハイボール(連載82)

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星エリナのほろよいハイボール(連載82)

白いダァリヤを演じる
星エリナ

 
 先々週の授業でのことだ。清水先生の雑誌研究の教室は、我らが文芸学科にはない異様な空気がいつも流れている。いや、むしろ異様なのは文芸学科のほうかもしれない。後ろのほうの席に固まって、学科やコース、専攻が違くても仲良く喋る学生たち。私はそこに入れず、一人左端の席を狙うだけ。
 宮沢賢治の「まなづるとダァリヤ」という作品を全員で考える授業だった。ただ何も考えず冒頭の部分を読んだだけででは、そこに隠された謎を読み解くことはできない。実際に演じてみよう。そうして、栗の木役と風役の二人の学生が演じる。栗の木の枝をむしっていく風は演劇学科の男性だったが、とても個性がある方で見事だった。
 そんなとても強い風のなか、なぜかダァリヤは「しづかにからだをゆす」るだけ。むしろいつもより輝き、微笑む。どうしてそんなことができるのか。ただ読んだだけではわからない、ある種この世界の異質な存在。そのことに気がついたとき、誰かが言った、『小説家は詐欺師だ』なんて言葉を思い出した。
 その後も演技は続いた。赤いダァリヤと黄色いダァリヤ、そしてまなづるの演技を何度もやった。キャストを代えて、何回も見ていくうちに、赤いダァリヤ、そして黄色いダァリヤがどんな性格なのかがわかってきた。さらに登場した白いダァリヤ。白いダァリヤは直接赤と黄色のダァリヤと絡むことはないが、この作品のなかでとても重要な位置にある。純真無垢、聖母マリアのような存在はつつましく微笑むだけで台詞もなかった。私は何度か白いダァリヤを演じた。
 来週も続きを行うため、先生は最後に指名した学生たちに台詞を覚えてくるように、と言った。指名された学生たちはみんな本当に演技が上手だったし、見ていて本当に楽しかった。黄色のダァリヤが男の子だったり、まなづるが女の子だったり、この教室内だけの「まなづるとダァリヤ」が見ることができた、ということが嬉しいくらい。そして、なんと白いダァリヤに指名されたのは私だった。来週はみんな何かしら、自分の役の色が入った服を着て来い、とぼそっと言われ、私は白い服を着る、と手帳に書いたのだった。
 そして翌週。白い服を着てきた私だったけれど、一度も白いダァリヤを演じることはなかったのでした。白いダァリヤを演じている女の子を見て、ちょっと羨ましいと思ったけれど、彼女の演技、踊りも素晴らしかったので感動した。
 ただ、私のように演技が苦手な学生もいた。そりゃあ演劇学科の学生の演技を見たあとはちょっとやりにくいと思うだろうけれど、ふてくされたような学生がいた。
 楽しかったり、妬んだり、疎んだり、ふてくされたり、嬉しかったり、眠かったり。教室にはたくさんの学生がいて、学生の数だけ、思うことはあった。
 私が大好きなアニメから、とある言葉を借りてこよう。
笑い 怒り 不安 恋愛 友情 競争意識 成長と堕落
教室の扉の中には全ての感情がつまっている
彼氏彼女の事情 津田雅美


 

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