ソジョンのため息(連載2)

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四六判並製160頁 定価1200円+税



ソジョンのため息(連載2)

【振り返ってみること】

修学旅行に行くための高校生など476人が乗った旅客船が沈没してから10日になった。激しい水流に対抗して、民・官・軍の捜索・救助作業が続いているが、行方不明者の生還を願った国民の希望はもどかしさを超え、絶望に変わっていた。沈没の直後に、素早い対応で脱出の案内を受けることができたのであれば、もっと多くの人々が家族のもとに帰ることができたはずなのに…本当に残念でならない。
インターネットから、その当時ある高校生がお母さんに送ったカカオトークの内容を見て涙を流した。
4/15の 午後5:35 母: 「雨に降られると風邪引くからね」
  午後5:35 息子: 「オッケー」
4/16  午前9:27 息子: 「お母さん 私が話しできないかもしれないから、送っておくよ 
愛してる」
   午前9:34 母:  「なんで...? カカオトークを見ない? したら…]1
 9:36 母:  「私も息子..~ 愛してる」1
お母さんが送ったこのメッセージをこの息子が読めたのかはわからない。とても悲しくてならない。まだ夢も咲けてない若い子たちが、こんなに団体で予告もなく去って行くなんて…。残った家族の気持ちを考えると、眠れなくなるくらいだ。まさかこんなことが自分に起きるとは、普通は考えることもできないだろう。絶対ないと思うからこそ、さらに衝撃で言葉にし切れないほど心が痛くなった。
在留カードを忘れてしまうこと、お金を忘れること、指輪を落とすこと、携帯電話を忘れてしまうことは、忘れてすぐに分かる。
純粋さを忘れてしまうこと、私が好きな自分の姿を失ってしまうこと、近くにいる人の大切さを忘れてしまうことは、忘れたのも知らないまま過ぎることが多い。
忘れてすぐ分かる物よりも、忘れていたのも知らずにいたものの方が、実は人生ではもっと大事である。
だから、私たちは一度ずつ、振り返らなければならない。予告なく訪ねる人生において、さらに大切なもののために。