ソジョンのため息(連載1)

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四六判並製160頁 定価1200円+税



ソジョンのため息(連載1)



【私たちを苦しめるのは、現実ではなく、ほとんど想像力である】

今日4月14日、結局戻って来なかった在留カードを再交付するために入国管理局に向かった。準備する書類は警察署からもらった紛失届書とパスポートだけ。紛失した当日から14日の間に入国管理局に行って、再交付の手続きをすれば、簡単にその日に再交付をしてくれると言う。すごく簡単だけど、不安だ。紛失届けをしてからもう2週間以上経っていたためだった。もうちょっと待ったら戻ってきそうで、根拠なくひたすら待ったのが誤りだった。在留カードは、今回の奨学金申請に必ず必要な書類だったため、締め切りまで残りの時間はなかった。だから、今日必ず再交付を成功しなければならない。そんな理由で、紛失の日付が明確に書かれている紛失届書は、もやもやしたから、持って行かないようにした。紛失届書がない人はその理由を書いて提出すれば良いと、インターネットに説明してあったから、言葉を少し回して書けば問題はないと安心した。ところが、実際に入国管理局に到着して聞いてみると、紛失届書がない人は警察署に直接電話して、紛失届書の番号を教えてもらって、理由書と一緒に書いて提出しなければならないという。
「はぁ...」
その時から、すべての計画は崩れて不安が始まった。今回の事とは関係ないことまで、全部思い浮かんで、最近大変だった色んな事がいっぺんに押し寄せて、私を苦しめた。わざと起きなくていい事なのに、どうして私には敢えて起きて(在留カードを電車の中で忘れた事)苦労するようになるんだろう...。私はここで一人で何してる...。
外国で一人暮らしをするのは本当に緊張感の連続だ。ちょっとでも緊張感をゆるくすると、自分も知らずにどんな誤りが起こるか分からない。ここでは誰も保護してくれない。一から百まで全部一人でしなければならない。常に緊張しなければならない。
そう、私はもう心が疲れていた。
14日以上経った人も再交付申請ができるのか、ずっと聞いて見たかったけど、余計な疑いを起こすのではないかって怖くて聞けなかった。「14日以上経ったから異なる手続きが必要なので、当日再交付は不可能です」と言われたらどうしょう...。すると、奨学金は申請もできずに受けなくなるんだけど、父との約束はどうしよう...。
番号札を取って椅子に座ってそうやって3時間を待つ間、一人でいらいらする気持ちを耐え辛かった私は、友達にこの状況についてラインを送った。一時期、頼もしい友達だったが、お互い忙しくなってきて、連絡するのは本当に久しぶりだっだ。それで返事が来ないとどうしようと、また心配しながら、少し待ってたら、幸いに早く返事がきた。
「できるよ、もちろん! してくれないと、どうする!」
私も知っている。本人の事ではないから、あんなふうに簡単に言えるのかも。しかし、その論理的な根拠を離れて、今の自分には一番嬉しい言葉であった。焦りがだんだん消えてゆく。「そう、今日中で手続きしてくれないと、どうするんだ!」まだ起きてもない事に、自らを苦しめていたのに気づいた。
私たちを苦しめるのは、現実ではなく、ほとんど想像力である。
そうやって30分後、いよいよ私の順番になった。やはり心配とは違って、再交付申請は何の問題もなくスムーズに終わった。むしろ誰よりも早く終わったような気がする。
ほっと安堵のため息をつく。
今が不幸だと思うなら、新たな心配事ではなく、新しくて楽しいことに自分の想像力を使ってみよう。取りあえず、想像の苦痛を止めてみること!

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