小林リズムの紙のむだづかい(連載289)

小林リズムの紙のむだづかい(連載289)
清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演などを引き受けます。

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清水正へのレポート提出は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお送りください。


小林リズムさんが八月九日「ミスID」2014にファイナリスト35人中に選ばれました。
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小林リズムの紙のむだづかい(連載289)
小林リズム
   【お母さんじゃないわよ】

  

  
  12月○日 ×曜日

 秋ごろまでアルバイトをしていたスーツ屋さんに、40代のパートで働いている女性がいた。12年間続けていた結婚生活にピリオドを打ち、バツイチで子どもはいない。現在は遠く離れた秋田県に住む年下の恋人がいるらしい。理由はわからないのだけど、彼女は秋田県から単身で上京してきたのだった。ひとつひとつの仕事を丁寧にこなし、几帳面で穏やかな彼女だったが、ひとつだけものすごく嫌そうにしていることがあった。それは、副店長から「お母さん」と呼ばれていたことだ。
 副店長はもともと社員の人やパートのことをニックネームで呼ぶことが常で、そうやって人との距離を縮めていこうとするタイプの人間だった。女性はちゃん付け、もしくは下の名前の呼び捨て。「苗字+さん」はどうしても距離があるようで気に入らないらしい。ゆえの、「お母さん」。最初の頃こそ軽く「お母さんはやだ」と訴えていた彼女だったが、次第に本当に不愉快そうな表情を浮かべ「お母さんって呼ばれても返事しないから」と言い切っていた。そうだよなぁ…と私は深く納得した。年下とはいえ30代の男性に「お母さん」などと呼ばれたくはない。「あなたのお母さんじゃないわ」と思うし、年齢を強調されているようで失礼な話だ。デリカシーがない。女性にとって呼ばれ方はとてもデリケートなものなのだ。

 そんなふうに思い出したのは、本屋さんで小さな男の子が駆け寄ってきたからだ。私の腰当たりをトントンと叩いて「お母さん、あっちにすごいのあったよ!」と爛々と輝く瞳で訴えてきた。びっくりして私が黙っていると男の子は私の顔をみてハッと気づき「間違えちゃった!」と小さく叫んで本当のお母さんのもとへと帰って行った。その姿はとてもチャーミングで、いいなぁ…可愛いなぁ…などと微笑ましい思いもした。けれど次第に「え…私…お母さんっぽく見えるの…?」とショックな気持ちが芽生え、心が冷え冷えとしてきた。世の中の「お母さん」という存在を貶しているわけではない。けれど、どうしても「お母さん」という言葉の響きはフレッシュさやみずみずしさに欠ける。シャープなイメージよりは、マイルドにまるっとしている。「お母さん」というものは最先端なお洒落とは正反対に位置して留まり、どっしりとしていて揺るぎないものなのだ。少なくともそれは今の私が目指している方向性とは正反対だ。それなのに…。嗚呼…お母さんか…と勝手に打ちひしがれていたら、さっきの男の子がまたちょこちょこと私のところに寄ってきて、不安げな顔で私を見て言った。「さっきは間違っちゃって、ごめんなさい」。男の子の後ろを見ると年齢のわりには少々お化粧が濃い目のオバサンが立っていてにこにこと笑っている。おそらくホンモノのお母さんだ。男の子はオバサンの後ろに隠れて恥ずかしそうにこっちの様子を伺っている。貫禄のある柔和な男の子のお母さんの顔を見ていたら、ほんのちょっとだけ「お母さん」も悪くない気がした。

 
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