星エリナのほろよいハイボール(連載8)

星エリナのほろよいハイボール(連載8)


嘘をついてみる                                     

星エリナ



 うそつきは泥棒のはじまり。これは、嘘を平気でつくようになるとどろぼうなどの悪事も平気でするようになってしまうため、うそをつくことは悪の道へ入る第一歩であるという意味である。とはいえ、嘘をついたことのない人間なんていないと思う。大小あれど必ずついたことがあるだろう。つまり人間はみんな、泥棒のはじまりなのである。
 私も嘘をついたことがある。最初はいつだかわからないけれど、覚えているなかで最も古い記憶は、小学校三年生くらいのとき。ませている女の子はクラスの誰が好きとか話し始めるときだった。私は少しもませていなかった。好きな男の子? うーん、お父さんかな。そんなことまわりの女の子に言えなくて、私はいつも「幼馴染のマモルくん」が好きだと言っていた。年上のお兄さんでよく勉強を教わっている。家族で仲良しだから、一緒に花火をしたこともあるんだー。そう言うとみんなうらやましいと言った。
 はい、嘘です。
 わかる人にはわかってしまうだろうが、マモルくんは三次元には存在していなくて、ちょっとおばかな金髪の女の子のことが好きで、たまにタキシードを着てその女の子が月に変わっておしおきするのを手伝っている。
 そんなどうでもいい嘘をついて人を楽しませることが大好きだった。嘘も方便ってやつ。人生たまには嘘も必要なんだ。と、自分に言い聞かせて嘘をついてきた。何事も継続は力なり。だんだんとコツを掴めるものだ。私は嘘をつくコツを少し掴んだ。コツその1、自分から進んで言わない。誰かから質問されたことについて嘘をつくのがいい。コツその2、嘘の中に本当を混ぜる。全部が嘘だと話している自分の中で現実味がなくなってしまう。例えば、誰かから「くずきりとはるさめって何が違うんだろう」と質問される。はっきり言ってどうでもいいし、私はそんなの知らないし、聞いてきた相手だって本当は興味ない。そんなときは嘘のつきどころ。
「確か原料が違うんだよー。くずきりはこんにゃくと同じ粉でしょ? はるさめはほら、デンプンだよ」
 はい、嘘です。嘘が混じっています。聞いた相手は「へーそうなんだ!」と納得していたけれど、わかる人はわかるだろう。こんにゃくの粉ってなんだよ。
 こんな調子で嘘をつき続けた私は、嘘も方便の度を越しているんじゃないかと最近思い始めた。そろそろ泥棒社会の中堅になれたかな。

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