小林リズムの紙のむだづかい(連載39)

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紙のむだづかい(連載39)


小林リズム

【ぶりっこ卒業】
 高校生の頃、タイツやストッキングは蒸れそうで嫌いだった。きちんとフィットしない感じもうっとうしいし、ストッキングはオバサンが履くものだと思っていたのだ。かわりに、やたらとニーハイを履いていた。ニーハイなら蒸れないし、そこそこ暖かい。ついでに絶対領域という、太ももだけチラ見えする格好がプチブームな時代だったから、恥ずかしげもなく毎日のようにスカート×ニーハイスタイルを貫いていたのだった。
 それにしても、高校生の頃のファッションを思い出すと、恥かしさで顔から火が噴きそうになる。これでもかというくらいフリフリしたワンピースやブリブリしたスカート、りぼんのついている小物やメルヘンなものを好んでいたのだった。制服がなく私服の高校だったから、青春時代を撮りためた写真は黒歴史として残り続ける。
 思い返すと中高生の頃の私は明らかにぶりっこだった。自覚のないぶりっこはタチが悪く、友達とつくったサイトでもやたらと花柄を駆使したり、メールの文体の顔文字も(*´^`*)と、明らかに媚系なものばかりを使っていた。実際に女の子らしいのならともかく、そうでないのだからイタさもひとしお。あれを「思春期だったからね」とか「若気の至りよね」という言葉でまるめこまないとやっていられない。とてもじゃないけど、昔の私と仲良くなれる気がしない。

 だから割と実感をもって思う。抑圧していたことの反動って、たぶんある。たとえば、中学生のときにまったくもって清純な女子中学生を演じていた私は、その反動でこんなにくだらなくて下品な内容を書き並べているのだと思うし、高校生まで地味で健全に生活していたせいか大学生になってからやたらと悪酔いするようになった。それってすごく情けないしカッコ悪くてダサいことなのだけど、でもそうでもしないとやっていられないのだった。無理な我慢はよくない。黒髪を突き通してきたグラビアアイドルが、タレントになった瞬間金髪にしたりするし、結婚してから狂い咲きする人もいれば、信用される職業についてから犯罪に手をのばす人もいるのだ。だから、もしかしたら今無職でだらだらと生活している私は、ある日突然ガツガツと働きたくなるかもしれない。「働く」ということを抑圧すれば、仕事したくて仕方なくなるかもしれないし、反対に「働かなくては」と頑張りすぎると、いつの間にかパーンと弾けて、何もかも捨てて、やりたい放題するのかもしれない。

 つまり過去にくだらないことや下品なことをひた隠しにして、ぶりっこばかりをしていたせいか、私はかわいこぶることに疲れてしまったのだ。「好きな食べ物は?」と聞かれて「甘いもの。ふわふわした綿菓子」なんて今じゃ絶対に答えられないし「モツ煮とか牡蠣とか?あ、カラスミも好き」とか言っているほうがすっきりした気持ちになれる。そうこうしているうちに、オヤジっぽいだとか結婚できなさそうだとか言われるようになって、これはちょっと望まぬ方向に行きすぎな気が…と戻りたくなるときもある。けれどしばらくの間は干物生活を続けようと思う。そしたらある日突然その反動で、私はまたぶりっこに戻るのかもしれない。年をとってからのぶりっこって、イタいのが8割増しくらいになりそうで怖いのだけれども。