小林リズムの紙のむだづかい(連載38)

紙のむだづかい(連載38)


小林リズム

【モテないバッグ】

 大きいバッグを持っている女性はモテない…という情報をネットで知ったとき、思わず笑ってしまった。私が持っているのは、見事に大きなバッグばかりだ。丈夫な素材でできていて、マチの部分がとにかく広くて沢山入れられるような作りになっている。そんな便利な大きいバッグがなぜモテないかというと、だらしなく見えて女性らしくもないから、らしい。底の部分が汚れていたり、取っ手がすりきれているバッグなんて論外だということだった。

 確かに、小さなハンドバッグを持っている女性はエレガントな感じがするし、上品で色っぽい感じもする。まるで家出をするかのような大きなバッグを持っている人より、何のために持ってるの?と突っ込みたくなるくらいに小さなバッグのほうが断然魅力に感じると思う。だけど、お弁当箱を少しだけ大きくしたようなハンドバッグに、長財布も文庫本もポーチも定期も入れるのって物理的にも不可能なのだ。なんせ、女の子は荷物が多い生き物…だと思うのだけど。そんなことを思っていたら、この間親友に
「そういえば、リズって高校の頃バッグの取っ手がちぎれたことがあったよね」
と言われた。そういえば高校生の頃は教科書や塾の教材を置いて行ったり持ち帰ったりするのが億劫で、お弁当箱だとかポーチだとかと一緒に、すべてを押し込んで持ち運んでいた。バッグの中の整頓?なにそれ、そんなことしたってプリントの端は折れるし、お菓子のゴミは出てくるし、ハンカチだってしわしわなんだから…。
「それで、取っ手がちぎれたバッグを抱えてたよね…」
そうだ、そのちぎれたバッグを抱えて、親友と近くにあるショッピングセンターに向かった。今度こそ取っ手がちぎれない丈夫なものを…と考えに考え、鉄と紐がからまったような、あまり可愛くない金属製のバッグを買ったのだった。はなから荷物を減らすことを考えず、丈夫さを重視しているあたりがもう女性らしさという言葉が辞書にない。

 それでもあの金属製バッグには、淡い思い出がある。生まれて初めて付き合った男の子と一緒に帰ったときのことだった。
「荷物重そうだね、持つよ」
「え、いいよ」
「いいから。一応、男ですから」
という、思い出すとかゆくなってしまうような初々しい甘酸っぱい会話をし、自転車を押しながら歩く彼に荷物を持ってもらったことがあった。しかし私のバッグは金属。取っ手のちぎれない丈夫さはウリだけど色気のなさと重さなら、どの女子高生にも負けない。バッグを渡した途端、え、と彼は戸惑いを隠せていなかったけれど、さすがに私に返すことはせず、自らの肩に私のバッグを背負わせた。しばらく無言で歩いてから「重いよね…?」と聞く私に、彼は辛そうに「…肩に食い込む」とうめいていたのだった。確かに取っ手は、彼の白いTシャツの上から見ても、彼の細身の肩に食い込んでいるのがわかった。それを見て、男らしいな…というよりは、いたたまれなさと可哀想という同情の気持ちが先行した。ありがとう、嬉しい…というよりは、申し訳なさでいっぱいだった。
 あの金属製のバッグは、安値だったにもかかわらずずいぶんと長持ちしてくれたのだけど、彼との恋愛はまったく長持ちしてくれず、1か月にも満たない間に壊れてしまったのだった。つまりはあれだ、持てないバッグは、モテないバッグだと悟ったのだった(ドヤ顔)。