『世界文学の中のドラえもん』を読んで・佐藤亮太

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「マンガ論」平成24年度夏期課題
世界文学の中のドラえもん、私の中のドラえもん
 佐藤亮太
清水先生の「世界文学の中のドラえもん」を読んで、まずは感想として今までの授業で説明された情景やセリフなどが更に事細かく、わかりやすくまとめられていて何度もなるほどと深く共感した部分も多く、
とても面白かったです。
私達の世代だと、生まれた頃にはすでにドラえもんという作品はこの世にあって、気がついた時には私達の生活の中に完全に浸透していました。漫画やテレビはもちろん、今では教材などにも登場するほど、娯楽という枠組みを越えその姿を見ない日はありません。私は幼少の頃海外で生活をしていましたが、私の住んでいた国でも、ピカチュウに並ぶ人気キャラクターツートップで、その知名度は凄まじく、今では様々な言語に訳されたドラえもんまで刊行されています。
そうやって、私達もドラえもんの世界ののび太たちと同じように、なんの疑いもなくその青くへんてこりんなロボットを、当たり前に受け入れて生活をしてきました。そうして今回この本を開いてみると、父殺しや、のび太死亡説、新たな神、この世でもあの世でもない別次元の存在など、恐らく日本中のひとがドラえもんと聞いてもこれらのイメージは浮かばないであろうものがこれでもかというぐらい事細かく綴られていました。本にも書いてあったように、今まで「ぼくドラえもん」などに代表される、ドラえもん大百科のような本や雑誌などはこれまでたくさんあり、僕も実際に購読していましたが、今回清水先生が刊行された本のようなものは一冊も見たことがありませんでした。そういったこともあって今回読んだこの本は読み応えもありとても楽しんで読むことができました。特に48ページ目の作者の戦略の部分はとても納得できました。確かに拍をとったり、ギャグ要素などを織り込みつつ、緊張の場面、弛緩の場面へのシフトの仕方そして最後のオチの部分へと、とてもナチュラルに作られているなとこれを読んで初めて納得できました。これがドラえもんが読みやすく、面白い部分、そして先にも述べたようにのび太たちと同じ感覚でドラえもんをうけいれることのできる、根幹の部分だと私は思いました。
これに似たケースとしてこち亀の愛称で親しまれている「こちら葛飾区亀有公園前派出所」でもテーマの提示、具体的な内容、ギャグ、オチなどしっかりと織り交ぜテーマについて言及しつつ、その上で読者を楽しませる手法が取られていて、作者の秋本治がドラえもんをリスペクトしていることも、作品を読んでいて伺うことができます。
これは私達演劇学科か、演劇好きな人だけかもしれませんが、ドラえもんと演劇作品との比較、とくにオイディプス王のような有名人気作品との比較はとにかくわかりやすかったです。ひとつ違う点はオイディプス王は最終的に悲劇で終わってしまうことに対して、未来の国からはるばるとは「悲劇という結末」の予定であったこの物語がドラえもんの登場によって喜劇へと生まれ変わること。私もこの第一話を読んだ時に、首吊りや火あぶりなどのワードが出てきて、どう話が動くのか、そもそも主人公が死んでしまったらストーリーとして成り立つことすらできないのにどうなるのか、など元々ドラえもんは知っていたので、死んでしまう、どうしようといった危機的感情で読むことはなかったものの、これもなるほどそういうことかと、ジグソーパズルを埋める感覚で、重複してしまいますがドラえもん自体は知っていたので、逆再生という形でこの第一話を読んでいました。
時間や空間、物体の概念を超越した、もはや神をも超えた存在であるドラえもん、これがもし宗教的神としてこのキャラクターが崇められていたらどうなっていたのだろうと考えると、最悪の場合宗教戦争まで起こしかねなかったかもしれません。逆に、そんな末恐ろしい存在が世界中で愛されているキャラクターとなっていると考えても、なかなか恐ろしいなとも思います。しかも、このドラえもんですらまだ完全体ではないのです。いったいこのドラえもんを超えた完全体のロボットとはどんなものなのでしょう、神を超える存在を超える存在。多神論者のような話の展開になりそうですがしかし、私達の世界で、実際に何かしらの宗教団体に所属し彼ら自身の神を崇めている人たちでも、その根本を大いに覆す存在であるドラえもんを嫌悪したり、禁止しているといったことはなく皆同様にドラえもんを愛してくれています。例外として、のび太のようにぐうたら人間にならないようにとドラえもんを禁止している学校がオランダにあるそうです。
宗教同士の対立や戦争が、過去にも世界中でたくさんあり、今ももちろんなくなってはいませんが、世界中でドラえもんが愛されているということは、もしかしたら敵対している者同士でもドラえもんが好きという共通点があるかもしれません。ドラえもんだけに限ることはありませんが私達が人間である以上、わかちあい、共有するためのきっかけが必ずどこかにあると私は思います。この、我らがドラえもんを筆頭に世界中で愛され、共有されいつの日か本当に「神をも超えた神的存在」として、聖書より世界にこの作品が普及し人々の思いを共有させるためのきっかけとなったらとても素敵だと思いました。私はそういった意味で、ドラえもんは清水先生の本にもあったように永遠に「神をも超えた神的存在」であってほしいと思います。


京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
『ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp
 『世界文学の中のドラえもん』 (D文学研究会)

全国の大型書店に並んでいます。
池袋のジュンク堂書店地下一階マンガコーナーには平積みされていますので是非ごらんになってください。この店だけですでに?十冊以上売れています。まさかベストセラーになることはないと思いますが、この売れ行きはひとえにマンガコーナーの担当者飯沢耕さんのおかげです。ドラえもんコーナーの目立つ所に平積みされているので、購買欲をそそるのでしょう。
我孫子は北口のエスパ内三階の書店「ブックエース」のサブカルチャーコーナーに置いてあります。
江古田校舎購買部にも置いてあります。

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四六判並製160頁 定価1200円+税