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紙のむだづかい(連載60)
小林リズム
【アルコール度数7%で生きる姉と、0.3%で生きる弟】
「ねー!無職ヒマ!学校終わったあとうちに遊びにきてよー」と電話口にわめくと、いつもは私のことをうっとうしがるくせに、意外にも弟は学校が終わってからすぐに遊びにきてくれた。しかも明日は1限から授業があるらしい。愛想がなくて不器用だけれど、弟は結構いいヤツなのだ。
媚とか処世術があまり得意でない弟は、媚と処世術で生活しているような姉の私をちょっと斜めに見ている(ように感じる)。今日ね、こんなことがあったの!と報告しても失笑するし、何を聞いても「まあ、いいんじゃない?」と適当に返される。
この間弟に「このフタ開けて」とオリーブ油の瓶を渡したときには「なに女子ぶってんの?」と言われてイラッとした。「はぁ?あんたに女子ぶったって1円も得しないし」と言うと「この前クラスの女子が“この缶開けて”って頼んできたんだよね」と話すから怖くなった。「まさか、その子にも今みたいに“なに女子ぶってんの?”なんて言ってないよね…?」と確認すると「さすがに言わないよ。ちゃんと“女の子っぽいね”って褒めた」らしい。女の子の媚を見抜いても男性には気付かないふりして優しく見守っていただきたいものだ。
家にやってきた弟は、無職の私に気を遣うふうでもなく、ずかずかと部屋にあがってきて「何か食べ物ないの?お腹すいた」と冷蔵庫を開けた。食料が少ないと文句を言われ、一緒に一階のスーパーへと買い出しに向かうことになった。
なんだかんだ言いつつ弟思いの私は「何食べたいの?」と聞きながらカップラーメンだとかヨーグルトを籠へ入れる。そして会計に並んでいるときに、レジの横の柏餅が目に入ったのだった。買おうかと思ったけれど、ここは無職。節約を心掛けなくては…。名残惜しい気持ちで目を逸らしたのだった。
しかし姉のものほしそうな顔を弟はチェックしていたようで、家に帰ると弟が自分で購入したらしくビニール袋から柏餅を取り出して机に置いた。「えっ、いつ買ったの?」とびっくりして聞くと、そこには軽くスルーして「まぁ、僕が食べたかったから」と何気ないふうを装ってテレビを見ていたのだった。そんなこと言ってるけれど、あれは無職になってしまった姉に対する優しさだってこと、気づいていましたとも。
媚とか処世術とかがあまり得意でない弟は、こういうときに純度の高い優しさを発揮する。そこだけは私は敵わないなぁと思うのだった。