小林リズムの紙のむだづかい(連載59)

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紙のむだづかい(連載59)


小林リズム

【動物園合コン】


 大学生というと「まずは合コン!」「手始めに合コン!」みたいに、合コンがお決まりの通過儀礼なのだと思っていた。でも実際に入学してみると「合コン?何それ?」とまるで存在しないような扱われ方でがっかりした。
 あとから振り返ってみると「飲み会」と称された、やたらと無理して盛り上げる男の子と、やたらとウケている女の子がお酒を飲み交わすアレが合コンだったのだと気付いて、「なーんだこれかよ」と騙された気持ちでいっぱいだった。とはいえ「初めての合コン」と聞くとやっぱり初々しくて若々しくてウズウズしてしまう。

 シャイな私の弟が大学に入学したとき、私は弟に合コンを経験してもらいたくて仕方なかった。電話をするたびに「彼女できた?」とサーチし、「出会いないの?」と促す。しまいには「合コンすればいいじゃん!」とごり押ししたくらいだった。だから、弟から合コンをやったよ、という報告を受けたとき、それはそれは嬉しかった。

 弟の初めての合コン相手は、超お嬢様で有名な学校に通う女の子たちだった。「男の子と遊ぶのなんて生まれて初めて!」な子たちらしく、そんな純な子たちが5人も来るなんてラッキーだと思ったそうだ。しかも門限があるという箱入り娘で、夜の8時には帰らないといけないため、合コンは健全に夕方の早い時間帯から開催されたのだった。でも「夜は長いから門限破って今日は楽しもうよ!」っていう展開になればいいね、なんて期待していたらしい。

「なんだか動物園みたいだったよ」
というのが弟の感想。合コンの感想が「動物園みたい」だなんて意味不明だけれど、ロバだとかオラウータン、ハツカネズミや飼育員ぽいオバサンに似た女子たちがバラエティー豊かに揃っていたそうだった。
 そしてお互いに乗り方や盛り上がり方がわからない最高に気まずいボーリング。「え、なにこれ、“うえーい!”とか言ってハイタッチすればいいの?」という男子陣と「え、なにこれ“きゃあ、やったぁ”みたいにリアクションすればいいの?」という女子陣が無理をするとそれはそれは白々しくなる。
 渾身の力を振り絞ってハイタッチをやり遂げ、なんとかゲームを終わらせた後の二次会の場所がまさかのファミレス。もう健全を通り越して適当なチョイス。すっかり退屈した女の子たちは女子同士で話し込み、男の子たちは机に突っ伏して寝る始末。誰もが「もう帰りたい…」と思っていたけれど、帰るタイミングさえつかめないし言い出せない。最終的には門限があるという事実そのものに助けられ「そろそろ帰らないとね…」という全体的な雰囲気のなか誰も連絡先を交換せずに解散したのだという。

 そんな経験を「初めての合コンとしてはよかったよ」と弟は振り返る。インパクトがあって、記憶に刻みつけられたからだ。あれから2年が経ち、弟は20歳の地味な理系学生、私は22歳の無職になった。変わらないことと言えば、姉弟揃って恋人に恵まれないこと。でもまだふたりとも諦めていない。いつか、良い出会いがあると信じている。その場所が、合コンだろうと動物園だろうと望みは捨てていないのだ。