星エリナのほろよいハイボール(連載31)

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四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp


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星エリナのほろよいハイボール(連載31)


ハナミズキを伐る


 庭のハナミズキとは、もう19年のおつきあい。この家と同じ年。はじめは1メートル弱くらいだったが、いまとなっては二階よりも高くなってたくさん太い枝も生えた。南側に庭があるのだが、ハナミズキの大きな枝と多量の葉により庭の日当たりが悪くなっている。というのは、我が家には手入れをする人がいなくなってしまったからだ。
 両親共働きで、植えた当初は家の近くに住んでいる祖母と祖父が庭の手入れをする予定だった。だから花壇もつくって、簡単なチューリップなどを植えていた。それから薔薇を植え、小さな家庭菜園をつくりきゅうりやぶどう、柿の木も植えた。私が小学生のころはきらきらとしたフラワーガーデンになったのだ。
 それから時は流れ、だんだん大人になった私。つまり、祖父母は老けていった。祖父に先立たれた祖母は認知症になった。それでも庭をいじることは好きなようで、よく草むしりをしていた。さらに成長する私、さらに老ける祖母。次第に介護が必要になり、デイサービスへ通い、庭をいじることはできなくなっていった。
 こうして次第に庭の手入れができなくなり、ハナミズキはとても大きくなって、薔薇も大きくなって、柿の木も大きくなって。お庭はプチジャングルになってしまったのだ。
 さて、祖母が死んでから、叔母が祖母の家に越してきた。叔母が住んでいた家は売るらしい。もともとリフォームしてから住もうと思っていたのだが、ご近所トラブルに巻き込まれ、そこに住むことがいやになってしまったみたい。
 そんな叔母が我が庭を見て、ひとこと。
「これ、伐っちゃお」
 ハナミズキの伐採がはじまった。あんなにもくもくとしたきのこ雲みたいなカタチだったハナミズキはこの一言で寒そうな木になってしまった。でも、叔母に言わせると、ちゃんと手入れをしないほうがかわいそうだって。木が死んでるからすぐに伐れちゃったよ、とのこと。我が庭の手入れをはじめた叔母はハナミズキだけでなく、薔薇の手入れもしてくれて、雑草が生い茂っていた花壇もすっかりきれいにしてくれた。
 きれいに茶色い土が見えてる花壇を久しぶりに見た。そういえば小学生のころは、赤いレンガで囲まれたこの花壇に、チューリップが咲いていたなー、と小さな思い出にふける秋のはじまりでした。



※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。

清水正著『ドストエフスキー「白痴」の世界』(鳥影社)の紹介(3)


この本に収録された『白痴』論は1985年12月23日に書き始め1987年5月11日に書き終えた。すでに二十六、七年も過ぎた。『アンナ・カレーニナ』論を含め、刊行したのが1991年11月。先日久しぶりに読み返したが、今度『清水正ドストエフスキー論全集』第七巻に収録したいと考えている。

清水正著『ドストエフスキー「白痴」の世界』(鳥影社)から目次と一部分を何回かにわたって紹介する
目次

第Ⅰ部『白痴』の世界
『白痴へ向けて――純粋の結末――7
ムイシュキンは境(граница)を超えてやって来た 25
идиот・新しい物語 38
ホルバインのキリスト像をめぐって 55
復活したキリストの無力 76
ムイシュキンの魔 92
ナスターシャ・フィリポヴナの肖像 121
レーベジェフの肖像 159
トーツキイのプチジョー 171
ムイシュキンの多義性――異人論の地平から――177


第Ⅱ部『アンナ・カレーニナ』の世界アンナの跳躍と死をめぐって 197
  ――死と復活の秘儀――

第一章 美の宿命 197
第二章 宿命的な邂逅 200
第三章 偽善(ファリシーヴィ)と不幸 203
第四章 不吉な兆 205
第五章 二人だけの秘密・偶然の魔の神秘 207
第六章 アンナの内なる悪魔 213
第七章 不倫の契約と自己欺瞞 218
第八章 ラスコーリニコフのあれとアンナの跳躍 221
第九章 跳躍の軌跡・アンナとゴリャートキン 224
第十章 ある何ものかの意志・神の使者イスタプニーク
第十一章 死と復活の秘儀・アンナの“罪と罰” 242
第十二章 赤い手さげ袋(красный мешочек) 244
第十三章 ゴリャートキンの発狂とアンナの死・自由と復活 247
第十四章 ラスコーリニコフの踏み越え 250
第十五章 ラスコーリニコフの復活とアンナの死 250
第十六章 アンナの死とイッポリートの「死」 252
第十七章 もう一人のアンナ=ナスターシャ・フィリポヴナ 256
第十八章 神の使徒・ひげぼうぼうの百姓とムイシュキン公爵 257


残された者たち 259  ――復活を待つセリョージャ――

あとがき 271

ムイシュキンは境(граница)を超えてやって来た

(二)黒髪と金髪の赤鼻
 とりあえず読者は二十六、七歳の二少年の外貌を見せられたにすぎない。叙述の展開に忠実であれば、読者は二人の名前さえ明かされてはいないのである。一人は「浅黒い顔の青年」(черномазый молодой человек)であり、他の一人は「金髪の青年」(белокурый молодой человек)である。ロゴージンは単に「黒髪」(черноволосый)とも呼ばれており、従って単純化していえば、導入場面では「黒髪」と「金髪」が出会っているということである。
 ところでこういった人物の命名法ですぐに想いつくのは、ドストエフスキーの初期の喜劇作品『他人の妻とベッドの下の夫』である。そこでは「袖の長い毛皮外套を着た青年」とか「洗い熊の紳士」とかいったあだ名で人物が呼ばれており、その命名法自体が各人物を過不足なくパロディ化していた。従って『白痴』において二人の男性主人公が、その外貌的特徴によって呼ばれていることは、この作品の喜劇的要素を示唆しているともいえよう。どうもわれわれは『罪と罰』以降の大作品を深遠な悲劇的作品として受けとめる読みの傾向に支配されがちで、作品が実に様々の喜劇的要素に充ちていることを失念しがちである。尤も、この作品はいたる所に喜劇的要素をちりばめながら創造された悲劇作品には間違いなく、それを誤ると、ドストエフスキーの深遠な精神世界への参入は拒まれることになる。
 この作品の導入部、即ち第一篇第一章においてわれわれは「黒髪」と「金髪」の他に、もう一人の重要人物「赤鼻の役人」(красноносый чиновник)を紹介される。いわば一列車の三等車の座席で黒と白と赤の三者の会話を読者は聴かされ、物語世界に参入するための予備知識を与えられている。まずは「黒髪」と「金髪」の会話に関する作者のことばに留意しておこう。

スイス風マントのブロンド青年が、浅黒い顔の相棒の質問に答えるさりげない態度はまさにおどろくべきもので、ある種の質問がぶしつけで、ピントはずれで、退屈まぎれのものであることなどには、少しも気づかぬ様子であった。彼はあれこれ答えながら、こんなことを説明した――自分は実際長いこと、四年あまりもロシアにいなかった、病気のために外国へやられたのだが、その病気というのは、体が震えて痙攣をひきおこす、癲癇とか舞踏病のような、一種不思議な神経病なのだ、と。浅黒い顔のほうは相手の話を聞きながら、何度かにやりと笑ったが、とりわけ彼が「それで、すっかりなおったかね?」とたずねたのにたいして、ブロンドが「いや、すっかりはなおしてくれませんでしたよ」と答えたときには、もう手放しで笑いころげてしまった。

 ここで作者が読者に留意せよといっているのは「金髪」の人を疑うことを知らない性格であろう。彼は初対面の男に、自分の「神経病」のことまで打ち明けている。「癲癇」にせよ「舞踏病」にせよ、それが秘密にしておきたい「神経の病」ではあっても、訊かれたからといってすぐに答える性格の病ではなかろう。しかも相手は見ず知らずの初対面の男なのである。であるからふつうに考えれば作者が言うように、「金髪」の開けっ広げなさりげない態度は「まさにおどろくべきもの」である。彼の性格はやがて「まれにみる性急さ」「空想の翼をひろげすぎる」「純朴で誠実」「自分の秘密をすっかりあばかれた当のご本人」「一門のなかで最後の者」とかいったことばで言いつくされることになるが、話し相手の「黒髪」の青年もまた自分の「秘密」を自らさらけ出していくことになる。
 「黒髪」と「金髪」の二人を読者の眼前に披露する役目を荷なっているのは、作者や語り手を除けば「赤鼻の役人」レーベジェフである。この男は「四十がらみの、体格のがっちりした、赤鼻で、顔じゅう吹出物だらけの書記どころで出世のとまった頑迷な小役人といった風態の男」として読者に紹介される。『貧しき人々』のマカール・ジェーヴシキンや『罪と罰』のマルメラードフに、延命し続ける強靭な道化意識を賦与すればこういった男が誕生するであろう。とにかくレーベジェフはなんでも知っている「物知り紳士」として、作者に最大限パロディ化された狂言回しとしての役目を負わされて登場しているが、この男の“秘密”を暴くのは、もしかしたら「黒髪」「金髪」以上に困難であるかもしれない。

小林リズムの紙のむだづかい(連載210)

小林リズムの紙のむだづかい(連載210)
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D文学研究会発行の著作は直接メール(qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp) で申込むことができます。住所、電話番号、氏名、購読希望の著書名、冊数を書いて申し込んでください。振込先のゆうちよ銀行の番号などをお知らせします。既刊の『清水正ドストエフスキー論全集』第一巻〜第六巻はすべて定価3500円(送料無料)でお送りします。D文学研究会発行の著作は絶版本以外はすべて定価(送料無料)でお送りします。なおД文学研究会発行の限定私家版を希望の方はお問い合わせください。
清水正の著作はここをクリックしてください。

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四六判並製160頁 定価1200円+税

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小林リズムさんが八月九日「ミスID」2014にファイナリスト35人中に選ばれました。
http://www.transit-web.com/miss-id/


小林リズムの紙のむだづかい(連載210)
小林リズム
 【正解もマニュアルもないから】
   
「あたしさぁ、わかったんだよね」
ハイボールのジョッキについた水滴を指でもてあそんだり、おしぼりで拭いたりする。頭のなかが変にハイテンションになっていく自分をどこかで自覚しながら、目の前にいる祖母に伝えたことがあった。
「今まで弱みとか、傷ついたこととか、言われたキツい言葉も、されたことも、お母さんに話せなかったのは、お母さんがあたし以上に傷つくって知ってたからなんだなぁって」
祖母も同じようにとろんとした目で見つめ返してくる。きっとかなり酔っ払っているだろうから、今日のことは話しても忘れてしまうだろうなと思った。そう思ったら、不思議なくらいにつらつらと言葉が溢れてくる。

「自分の身に降りかかった苦しい出来事をさ、話すでしょう?そうするとお母さんはあたしよりも落ち込んで悲しんじゃうの。それが嫌だった。自分が一番悲しみたいときに自分よりも悲しまれたら、もう自分のために悲しむことができないんだよ。
あたしはどーんと構えて“そんなことくらいで何いってるの!しゃきっとしなさい!”って叱ってほしかったんだと思う」

 いつだったか、母がわたしに“みんながりっちゃんみたいに強いわけじゃないんだから”と言ったことがあった。わたしはその言葉に“確かに強いよ。でもお母さんは弱すぎる”と返した。そしてその言葉は今でも間違っていなかったと思う。母は弱い。その弱さにわたしは何度も苛ついたし、ずるいと思った。傷ついたほうが優位に立てる気がして、弱さを露呈できるほうが偉い気がして、納得がいかなかった。自分は弱さをみせないように振る舞い、心配させないようにして頼らずにいるのに、どうして冷たいなどと言われないといけないんだろう。そう思ってた。

「でもね、そうやって強くいられたのも、自分以上に傷つくお母さんがいたからなんだよね。なんか矛盾してるけどさ」

ぽろっと出てきた自分の言葉に自分で驚く。祖母をみると、ほとんど焦点が定まらない目で相槌を打っている。酔っ払っているなぁと思った。祖母が今何を考えているのかわからないように、母の本当の気持ちもわからない。人の気持ちを汲むことができないわたしは、自分自身の気持ちにさえ鈍感で気づかないこともある。わからないことだらけなのだ。母のことも、自分のことも。
 少しだけ残ったハイボールをぐっと傾けて飲み干し、おかわりを頼んだ。祖母が横で「でもよかったわぁ。ふたりともこんなふうに成長して」と小さな声で言ったのを聞いた、ような気がした。

 

小林リズムのブログもぜひご覧ください「ゆとりはお呼びでないですか?」
http://ameblo.jp/nanto-kana/

twitter:@rizuko21


※肖像写真は本人の許可を得て撮影・掲載しています。無断転用は固くお断りいたします。