断想・幸徳秋水とドストエフスキー(連載1)
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わたしは今年の二月八日に七十三歳になった。ちなみにドストエフスキーは満五十九歳で亡くなっている。ところでわたしが十七歳の時に読んだ『地下生活者の手記』(米川正夫訳 新潮文庫)には年齢に関して次のような記述がある。
私はいま四十だが、しかし、四十年といえば、これはもう人間の全生涯だ。それこそもう大変な老齢である。四十年以上も生き延びるのは不作法だ、卑劣だ、不道徳だ。一体だれが四十以上も生きている? 正直に誠実に答えてみ給え。では、私がそれに答えよう。馬鹿とやくざ者が四十以上も生きるのだ。私はありったけの老人どもに、面とむかってそう云ってやる! 世の尊敬を受けている、髯髪に霜をおいた、芳香馥郁たる老人どもに云ってやる! 世間のやつら一同に、面とむかって云ってやる!(10~11)
十七歳の頃、これを読んで妙に納得した。『カラマーゾフの兄弟』のイワンは確か「三十歳になったら杯を床にたたきつけるんだ」と言っていたはずである。四十三キロの体重でドストエフスキーを読み、批評していた二十歳前後の頃、人生四十年など想像すらできなかった。従って、四十以上も生き延びるのは〈不作法〉〈卑怯〉〈不道徳〉であり、〈馬鹿〉と〈やくざ者〉だけがそれに当てはまるという地下男の言葉は妙に説得力があった。
ところで、『地下生活者の手記』など一遍も読んだことのないひとのために、先の引用箇所の続きを紹介しておこう。
私はこういう権利をもっているのた。なぜなら、私自身、六十まで生き延びるからだ。七十までも生き通すからだ! 八十までも生き続けるからだ!(11)
地下男の言葉を一義的に解釈しているととんでもない目に遭う。自意識過剰の地下男の言葉は自虐、諧謔、逆説に満ちており、まるで沼に生息する泥鰌のように捕まえたかと思うとすぐに指の間からすべり抜けてしまう。
こんな地下男の言葉と出会ってから実に五十五年もの間、ドストエフスキーの文学と関わることになった。
今、なぜ幸徳秋水なのか。
神経痛のため原稿は風呂に入っているときに書いているので、長く時間をとることができない。ゆっくりと、断想的に語っていくことにしよう。が、風呂からあがる前にこれだけは書いておこう。
幸徳秋水が大逆事件の首謀者として死刑判決を受けたのは一九一一年(明治四十四年)一月十八日、同月二十四日に処刑されている。満三十九歳の時であった。幸徳秋水は、地下男のいう〈不作法〉〈卑怯〉〈不道徳〉な四十歳以上の醜悪卑劣な生存を見事に回避し得たというわけである。2022/02/13 05:22
エデンの南 清水正コーナー
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お勧め動画・ドストエフスキー『罪と罰』における死と復活のドラマ https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk&t=187s
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令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ
発行日 2021年12月3日
発行人 坂下将人 編集人 田嶋俊慶
発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1
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