山下聖美  

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清水正ドストエフスキー論執筆50周年 清水正先生大勤労感謝祭 第一部・今振り返る、清水正先生の仕事」(日大芸術学部江古田校舎芸術資料館 2018年11月23日)で司会進行を務める山下聖美教授


 

ドストエフスキー曼陀羅」特別号から紹介します。 

 

〈ある何ものか〉をめぐって(2)
 山下聖美

 

霊的なるもの
 
私は決してスピリチュアル大好き人間ではないが、自分の 人生を振り返ると、常に何かに動かされて守られて生きてき たように思う。自分の意志や力だけでは動いていないという ことを強く感じる。もちろん、意志や欲望は強く持っている 方だと思う。しかし、それらも、何かに持たされているよう な、そんな不思議な気持ちを抱えずにはいられない。明らか に誰かに用意されたかのような出会いがあり、出来事があ り、何か大きなものに動かされていると考えずには、腑に落 ちないことばかりである。
 
であるから、私は自分の計算や知識、技術だけで世の中を 渡っていけると思っている人を浅はかだと思う。研究者で あったら三流だ。本来、研究者は、文系、理系に関係なく、 人知を超えたものの何かを感じるからこそ、一生をかけてそ の謎を追求していく存在ではないのか。
 
突然であるが、私の自慢の祖父は、学生時代、物理学を専 攻していた。孫に算数や数学を教えてくれ、当時、夏になる と盛んにテレビ放送していた心霊ものの番組を怖がる私たち に「科学の視点を持つべきだ。こういう迷信を信じてはいけ ない」とよく一喝していた。そんな祖父ではあるが、一方 で、仏教に深い関心を示し、能の謡にのめり込んでいた。今 から思えば、科学を追求したものだからこそ感じることがで
きた大きな神秘を、仏教や能の世界にも見出し、求めていた のではないだろうか。
 
清水正先生について書いている文章であるのに、ここで突 然、私の祖父の話となったのには理由がある。私が二十四歳 の時に、祖父が亡くなった。祖父を直接看取ったのは私で あった。意識がもうろうとする中、苦しそうに呼吸をしてい た祖父は、最後に目を見開き、恍惚としたような表情で、大 きく息を吸ってそのまま息絶えた。何か大きなものに吸い込 まれていったかのような最期であった。
 
この〈死〉の体験をもとに書いたのが、つげ義春の「西部 田村事件」論である。これが、はじめて清水先生にほめられ たレポートであった。清水先生によると、このレポートで私 は「化けた」らしい。学生は「化ける」から、とはよく清水 先生がおっしゃることであるが、まさに私自身が、そうで あったのだ。
 
祖父が私に伝えた〈死〉の姿は、私の人生や文学にとっ て、とても大きなものとなった。こうして人は、定められた タイミングで、定められた何かをもらい、生きているのであ ろう。自分の意志をも包み込まれていくような、何か大きな 力の連鎖の中にいる自分を、強く感じる。

(やましたきよみ 日大芸術学部文芸学科教授・日本文学研究家)

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清水正ドストエフスキー論全集第10巻が刊行された。
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