野本博 文学に係わる者の使命(3)

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清水正の著作はアマゾンまたはヤフオクhttps://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208で購読してください。 https://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208 日芸生は江古田校舎購買部・丸善で入手出来ます。

 

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これを観ると清水正ドストエフスキー論の神髄の一端がうかがえます。日芸文芸学科の専門科目「文芸批評論」の平成二十七年度の授業より録画したものです。是非ごらんください。
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清水正ドストエフスキー論全集第10巻が刊行された。
清水正・ユーチューブ」でも紹介しています。ぜひご覧ください。
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ドストエフスキー曼陀羅」特別号から紹介します。

文学に係わる者の使命(3)
野本博

 

清水先生の文学観
  
号泣と我慢
 
私は毎年秋になると、日芸祭を見に友だちを誘って江古田 まで足を運ぶ。校内には運動部や文化部を問わず、各部が出 店したいくつもの屋台が並んでいる。それらをひと通り見て 回った後、最後に自動車部の屋台で名物の「アゲリカン」を 食べながら、清水先生の研究室にうかがうことが多い。そし て先生の研究室でお互いに近況などを話し合うのだが、お元 気な姿に安心して「それでは、また」と帰ろうとすると、先 生は必ず私に「惠存   野本   博   様」と大きな墨文字でサイ ンをした新刊をくださるのが常であった。
 
清水正先生の文芸批評と言えば、その対象は何と言っても 海外文学ではドストエフスキーであるが、チェーホフもまた 先生の論考の対象である。
 
その他、日本文学では三島由紀夫林芙美子、先に上げた 宮沢賢治、また漫画では手塚治虫つげ義春日野日出志な ど、とにかくその批評の対象となるフィールドは実に多彩で 幅広い。また、暗黒舞踏で知られる土方巽や映画監督の今村 昌平など、文学とはジャンルを異にした人物たちの鋭い批評 でも異彩を放っている。
 
数ある清水先生の著書の中で、私が特に印象に残っている 一節がある。それは平成十七(二〇〇五)年に出版された 『三島由紀夫・文学と事件』の中の「あとがき」に書かれた 文章である。三島由紀夫はご存知のように昭和四十五(一九 七〇)年十一月二十五日に、楯の会の隊員四名とともに東京 の自衛隊市ヶ谷駐屯地(現・防衛省本省)を訪れ、東部方面 総監を監禁、バルコニーでクーデターを促す演説をした後、 割腹自殺によって生命を絶ったが、その自決に関して、清水 先生はこの著書の中で〈自らの生〉について次のように語っ ている。少し長いが、大変感動的な文章なので、引用させて いただきたい。 「わたしはわたしなりに静かに自分の生を省みた。わたし は三島由紀夫のように体を鍛えようと思ったこともないし、 自らの命を自ら断つことに男らしさや美を感じたこともな い。わたしは残された者として、自らの生を全うしなければ ならない。残された者の悲しみ、怒りをすくい取れない文学 は文学ではないというのが、わたしの文学観である。
(略)
 
昨日、この本の校正を終えて、一息ついて、あらためて 蘇ってきた三島の言葉がある。母倭文重が三島の日記帳に発 見した『僕はいつも号泣したいのに我慢している』という言 葉である。生きて有る〈現在〉を必死に精一杯生きた三島の 内心の声である。こういう声を聞いてしまうと、三島の〈事 件〉を善悪の次元で片づけることはできなくなる。文学に係 わる者は、だれもが号泣を我慢して生きている。否、この世 に生を受けたすべての者がそのように生きている。
 
今日七月二十九日は、昨年ソウルに旅立った前日であり、 故父の妹の葬式であった。結婚してすぐに夫は戦争で帰らぬ 人となり、一人息子を女手一つで育て上げ、八十七歳の生を 終えた女の一生に、どれほどの号泣と我慢があったことだろ うか。一文字も残さなかった者たちの内心の思いを、表現し なければならない使命を与えられた者がある。わたしは、そ の使命を全うしなければならない。」と。
 
文学に係わる者の〝覚悟〟がよく伝わってくるすぐれた文 章である。最後になったが、私も日芸の卒業生の一人とし て、清水正先生の長年の教員生活と友情に対し、心からの感 謝を申し上げたい。これからも健康にご留意され、いつまで も健筆を揮っていただくことを期待してやまない。
(のもと・ひろし    株式会社愛和出版研究所代表取締役