水島千歌 アイスクリーム

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これを観ると清水正ドストエフスキー論の神髄の一端がうかがえます。日芸文芸学科の専門科目「文芸批評論」の平成二十七年度の授業より録画したものです。是非ごらんください。
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清水正ドストエフスキー論全集第10巻が刊行された。
清水正・ユーチューブ」でも紹介しています。ぜひご覧ください。
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ドストエフスキー曼陀羅」特別号から紹介します。

 

アイスクリーム
水島千歌

 

最近、また仕事終わりに酒を飲みながら帰ることが増え た。酒は簡単にハイになれるから好きだ。さざ波のように やってくる孤独を、ひとときでも追いやってくれる。六、七 年前は、単に飲みの場の雰囲気に逃げたり、大人たちの話を 聞いているのが楽しいだけだったはずなのに。
 
ひとりで酔っていると、たまにマルメラードフの話をして いるまーくんを思い出す。当時から私はマルメラードフがど うしても嫌いになれなくて、それは自分の父親と重ねている からだろうなと思っていたんだけど、急に自分自身と重ねて いるんじゃないかと気づいて冷や汗をかいた。私は、自分の 愛しているものは素直に愛したい。
 
三、四年が清水ゼミに決まった時(まーくんから直接指名されたので、結局ゼミの希望を取る書類は出さず仕舞いだっ た)、まーくんに「千歌のゼミは俺のとこ以外にないだろう」 と言われた日、嬉しくって少し泣いた。認められたようで、 少なくとも近くにいていいんだと確認できて、私の向こう二 年間の存在意義ができたと本気で思っていた。
 
さらに幸運なことに、まーくんを筆頭とした飲み会に同席 させていただくことが多かった。ゼミは金曜五限、まーくん は飲みのためにこの時間にしているんだと得意げに話してい た。場所はもっぱら大学近くの中華屋で、私はそこで紹興酒 の味を覚えた。会ではもっぱら仕事の話、文学のこと、生活 について……いろんな話を大人たちがしていて、私みたいな ガキにはよくわからない話なんかも繰り広げられていたけ ど、いつだってまーくんは私を隣に座らせて、あれが食べたいとか一緒に飲めとか言って構ってくれた。そしてまーくん は私の目をいつもまっすぐに見る。悲しいのとか寂しいのを 我慢しているような、子供のような目で。ひとりでいるひと の目、私は、大人の男のひとでもこんな目をするんだってこ ともこの頃覚えた。
 
だから私は、マルメラードフを父親と重ねていたんだ。マ ルメラードフも同じ目をしているに違いなかった。父親も きっと。そう思っていたけど、自分の中にもそれを感じるっ てことは、血なんだろうか?   それとも私がどこかに抱えて いる何かがそうさせているのだろうか、わからない。だけど まーくんはお見通しだったんだろうなと思うとちょっと悔し い。
 
酔いが覚めるころには、叫びだしたくなるような衝動と孤 独がゆっくり戻ってくる。人は多かれ少なかれ、自分のなか にこんな気持ちを抱いて生きているんだろう。父親も私もまー くんも。だけどそれを押し殺すのか、静かに向き合うのか で、生き様みたいなものが現れるんだろうなと今になって思 う。だから私はまーくんの言葉が好き。ひとりひとりでひと り。
(みずしま・ちか     日芸卒、新妻)