小林リズムの紙のむだづかい(連載52)

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紙のむだづかい(連載52)


小林リズム

【みんなちがってみんないいわけない】


 「みんなちがって、みんないい」という耳に優しいフレーズとは小学校の国語の教科書で出会ったし、「世界にひとつだけの花」をBGMにしながら小学校を卒業し、中学校に入学した。運動会の短距離走も「走り切ることが大事!」って言われたからとりあえずゴールまで走った。いつもビリだったような気がするけれど、別に気にしなかった。
 私たちはこの世に生きるかけがえのないひとりで、個性豊かでみんな違うけれど、その違いも認め合って共存していくのが…あれ?そう言われてたよね?学級目標は「十人十色」だよね?クラスの人数が36人だと無理やり「36人36色」にされたりなんかして…。

「あのなぁ、絶対に正社員になったほうがいい」
 会社を辞めてから初めて、平日のデパートの喫茶店でおじいちゃんにそう言われたとき、私は「まあねー、でもみんなちがってみんないいじゃん?」と軽いノリで言ったのだった。おじいちゃんは唖然とした様子で「今の人の考えていることがよくわからない…」と呟いていた。
 時代が違うとか、育った環境が違うとか、いろいろと説明したのだけど、それでもよくわかっていないようだった。ついにもどかしくなって「まあさ、生き方って人それぞれだから」という言葉で強引にまとめたのだけど、返ってきたのは言葉でさえなくて溜息だった。

 この年になって、さすがにわかってきた。みんなちがってみんないいわけがないと。仕事のペースが遅くて注意されたときに「あのぉ、みんなちがってみんないいと思うんですけど…」なんて主張したら絶句されるし、営業成績が低いときに「でも人それぞれだから…」と言おうものなら間違いなく失笑される。
 「みんなちがってみんないい」のは、自分の力で努力してもどうにもならないこと限定で取り扱われるものなのだ。それも「みんなちがってみんないい…とは限らないけど、みんないいといいよねー」くらいの意味で。

 考えなしに「みんなちがってみんないい♡」がお気に入りだった私は、中学校の数学で27点を採ったときとか、体力テストのひどい結果とか、自分に都合の悪いときにフル活用させて間違った方向に元気づけてきた。そのため今でも二桁の引き算とか苦手だし、走るのも飛ぶのも競うのも不得意。末期の、ミンナチガッテミンナイイ病患者だと思う。

 さて、これから私の後に時代を背負っていく子たちには、自分のことはすべて棚にあげて「みんなちがってみんないいわけないから。それ信じちゃってるの痛々しいから」と教えたいと思う。「血を吐くまでやり抜け馬鹿野郎」って叱咤激励したいと思う。間違っても「みんなちがってみんないいんだから、みーんなそのままでいていいのよ♡」なんていう台詞は絶対に吐かないでおこうと思ったのだった。