星エリナのほろよいハイボール(連載94)

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星エリナのほろよいハイボール(連載94)

 小学校が近くて遠い
星エリナ

 

 夏休み。社会人の方からは「いいないいなー」と羨ましがられ、「これが最後だからな」と釘を打たれる。まーもちろんそんなことはわかっているので、今までにないほど遊んでいる。飲みすぎてダラダラと帰ってくる日もある。そんな夜が学生っぽくて心地よく感じる時もある。でも次の日は頭が痛くてお酒なんて飲みたくないと思うんだ。結局三日後には飲んでるし、バカだなぁ。
 先日もそうだった。飲んで帰ってお風呂入ってから布団へ入った記憶はある。そして、ぐだぐだっとした朝は11時くらいまで布団の中にいる。寝転がりながら扇風機をつけて、漫画を読む。これぞ学生の夏休み。遅く起きた朝だけど、やっぱり私はカフェオレとパンが食べたい。のそりのそりと起き上がり、カフェオレを準備したときに気付く。パンがない。あれ。いつもなら諦めてホットケーキを焼いたり、もう朝ごはん自体を諦めてお昼ご飯にしちゃう。だけどその日はどうしても食べたいパンがあった。
 私が通っていた小学校は、私の家から徒歩3分。かなり近い。調理実習の食材を忘れた日も取りに帰ったことがある。小学校の裏門の向かいには、パン屋さんがあった。小さな小さなパン屋だ。店内は六畳ある私の部屋より小さいだろう。朝の混み合う時間は身動きもとれない。小学生のころはお小遣いで50円のリング型のパンや70円の大きなメロンパンを買っていた。サンドイッチも大抵100円から120円で、大好きだった。
 最近では母がたまに買いに行くくらいであまり食べていなかった。それがなぜかどうしても食べたくなって、12時前にパン屋へ行った。小学校までの道も変わっていて、大きな通りを横切らなくてはいけなかった。そうして辿りついた小学校前のパン屋さんは、なんにも変わっていなかった。小さな店内、棚も配置も変わっていない。
 懐かしいキュウリが入ったツナサンドとソースの味が忘れられないカツサンド、手作りのカスタードクリーム入りのコロネを取って、レジに置く。パン屋のおばあちゃんがレジに立つ。小学生のころから同じおばあちゃん。だけどふと気付く。あれ、おばあちゃん、こんなちっちゃかったかな。震災のとき田舎の祖父母に感じたものと似ている。
 ガラス越しに見慣れたおじいさんがパンを作っている。その横には息子らしき男性もいる。あの人は小学生のころはいなかったなあ。変わっていたのは息子さんがいたことだけではない。50円だったリングは70円になっていて、サンドイッチも140円。なんにも変わっていないと思っていた場所は、思ったより変わっていた。いつのまにか遠くに感じていた。それがなんか寂しくて、でもそれだけ時間が流れていることを実感した。
 

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