小林リズムの紙のむだづかい(連載216)

小林リズムの紙のむだづかい(連載216)
清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演などを引き受けます。

D文学研究会発行の著作は直接メール(qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp) で申込むことができます。住所、電話番号、氏名、購読希望の著書名、冊数を書いて申し込んでください。振込先のゆうちよ銀行の番号などをお知らせします。既刊の『清水正ドストエフスキー論全集』第一巻〜第六巻はすべて定価3500円(送料無料)でお送りします。D文学研究会発行の著作は絶版本以外はすべて定価(送料無料)でお送りします。なおД文学研究会発行の限定私家版を希望の方はお問い合わせください。
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四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
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清水正へのレポート提出は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお送りください。


小林リズムさんが八月九日「ミスID」2014にファイナリスト35人中に選ばれました。
http://www.transit-web.com/miss-id/

小林リズムの紙のむだづかい(連載216)
小林リズム
 【恋よりも遠く】


   気になる人がいる。しゃべったことは10回を超えると思うのだけれど、きちんと会話をしたのは3回。それも「この本って、置いてありますか?」とスマホの画面を見せて聞き「探してみます!」そして「すみません、ありませんでした」という報告を受けただけなので、会話と言っても差しさわりがないのかはわからない。
 いつもは「カバーはお付けしますか」「や、つけなくていいです」「かしこまりました。どうぞ」「はい、どうも」という10秒くらいの変わらないお決まりの流れなので、もう彼とはひそかに通じ合っていて合言葉ならぬ愛言葉を紡いでいるのではないかと錯覚している。

 近所にある本屋さんのなかでももっとも近く、そしていちばん小さい書店で、店員をやっている彼の年齢は不明。強いて推測するなら20代後半から30代前半くらい。…いや、10代な気もするし、40代といわれても「ふーん」と納得できてしまうような不可解な外見だ。いつも適当なTシャツを着て、その上から書店用のエプロンをつけていて、洒落っ気がまったく感じられない。人からどう見られるかとか、どう見られたいかとか、ややこしいことを考えていないようで、そこがいい。彼の自身の外見への無頓着ぶりにはあっぱれだ。

 春が終わるあたりまで、彼の前髪は邪魔になるくらいに長くて、もっさりとした重い頭で、いつも俯いていた。それも「切るのが面倒」という理由でひたすら放置したというか、何かを配慮したゆえのヘアスタイルではなく、なるようにしてなったという無抵抗な感じ。自然現象に抗わない彼の髪は、みるたびに伸びていて、うっとうしそうだった。
 初夏になって本屋さんに足を踏み入れると、新しい店員さんがいた。あれ、いつもの人はいなくなっちゃったのかな…と顔を確認すると、新しいと思っていた人はいつものもっさり店員だった。いきなり丸坊主になっていたからわからなかったのだ。おニューのヘアスタイルはお洒落に刈り上げているとかではなくて、単に「暑いから切る」という発想からカットしたような、なんの変哲もない丸坊主だった。中途半端ではなく、切るなら切る。理由は、暑い夏がくるから。そのあまりにものまっすぐな潔さにくらくらした。なんて清々しい…!

 髪の毛が一瞬にしてなくなった彼は、本を探すときに汗をかいているのがわかる。丁寧に1冊1冊見落とさないようにチェックしてくれる。わたしは自分のためじゃなくて、彼のために本が見つかればいいなと祈る。見つからないと彼は本当に申し訳なさそうな顔をするから。
 これってないものねだりでしょうか。自分がややこしい人間で手を煩わせているので、シンプルで単純で淀みのない人に惹かれる。食べるときも「この料理のこういうスパイスがいいよね…」と長ったらしく感想を述べられるよりも、単純に「うまい!」のひとことだけでいいし、趣味に対しても「こうすることによって次のステップに繋がるからやる」という理由づけをせずに、単純に「好き!」「嫌い!」という判断ができるのって素敵だ。

 きっと本が好きだから本屋でバイトをしてるんだろうな。そして服に興味がないからよれよれのTシャツを着ているんだろうな。そんなことを考えながら、彼の3センチくらい伸びた髪の毛をレジ越しに眺める、秋。

  

小林リズムのブログもぜひご覧ください「ゆとりはお呼びでないですか?」
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