小林リズムの紙のむだづかい(連載58)

清水正への原稿・講演依頼は  qqh576zd@salsa.ocn.ne.jp 宛にお申込みください。ドストエフスキー宮沢賢治宮崎駿今村昌平林芙美子つげ義春日野日出志などについての講演を引き受けます。


ここをクリックしてください。清水正研究室http://shimi-masa.com/


四六判並製160頁 定価1200円+税

京都造形芸術大学での特別講座が紹介されていますので、是非ご覧ください。
ドラえもん』の凄さがわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=1GaA-9vEkPg&feature=plcp

http://www.youtube.com/user/kyotozoukei?feature=watch

紙のむだづかい(連載58)


小林リズム

【ホントウ ノ コイ】


純愛。という言葉の意味を、夜中にこそこそと辞書で調べてみた。
【純粋な愛。ひたすらな愛情。―広辞苑より】と出てきた。

純粋。という言葉の意味を、調べてみた。
【まじりけのないこと。邪念・私欲がなく清らかなこと―広辞苑】と出てきた。

結論:不純な考えと己の欲でいっぱいいっぱいの私は、純愛を経験したことがない。

 お母さんが薔薇園に出かけたとき、制服を着た私立の学校に通っているらしい中学生の男女がもめていたという。女の子のなかには泣いている子や、それをかばっている子がいたり、気まずそうな表情をしている男の子もいたりして、一発で修羅場だと確信したそうだ。
 修羅場が大好きな母はもちろん、全身を好奇心の塊にして、その一挙一動を熱心に見守った。どうやらかばっている女子がボスらしく、激しく男子を罵っていたのだという。
「ちょっと!なんでこの子を泣かせるのよ!」
と、泣いている女の子に歩み寄りつつ怒声を浴びせるボス女子。
「だって、うちの学校は恋愛禁止だろ!」
と負けじと言い返す男子。どうやら、女の子が男の子に告白している最中に、偶然それを発見した男の子がからかって、女の子を泣かせてしまったらしい。恋愛禁止令が出される中学校って、どんなところよ…なんていうのはさておき、男の子に対してボス女子の返した言葉が秀逸だった。

「あんたなんて…あんたなんて、本当の恋をしたことがないからわからないのよ!!」

 あまりにものまっすぐなセリフにあたり一面が静まり返った。(らしい)。

 14歳くらいの女の子の叫ぶ“本当の恋”ってどんな恋なんだろう。大人になったはずなのに、ズルいことばっかり身につけてしまった私には「本当の恋」なんて皆目見当がつかない。それどころか「本当の恋」っていうワードさえ恥ずかしすぎて口で発音して言えない。
 恋愛が禁止されている学校で、思いを抑えきれずに告白した女の子の気持ち、それをついからかいたくなってしまった男の子の気持ち、告白した友達を見て恋について真剣に向き合っているボス女子の気持ち。そういうものを想像していたら、なんだかものすごく羨ましくなったのだった。いいなぁ、純愛。略奪成功率だとか、将来浮気予測値、紹介体裁反応値なんて予算組みしているあたりもうダメだ。そんな状況で「これが本当の恋なの!」なんてどう頑張ったって白々しいよなぁ…。と、深夜3時に電子辞書に表示された「純愛」の文字を前にヤキモキするばかりであった。