ベトナム研究旅行(連載8)

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ベトナム研究旅行
(連載8)
ベトナム最古の寺院を見学した後、バスは戦争証跡博物館へと向かった。ベトナム戦争の生々しい傷跡が見る者の胸を刺し貫いてくる。ひとはなぜ闘うのか。宗教、民族、イデオロギーの違いが戦争を引き起こすのか。政治、経済の次元だけでは解決できない、人類・生物全体の問題が横たわっている。神の存在をめぐって一生涯苦しみぬき、人間の謎を解くために小説を書き続けたドストエフスキー、生物界全体の中で人間の幸福とは何かを問い続けた宮沢賢治、彼らの文学の課題を総動員しても展示された一枚の写真が突きつけてくる問いに答えることができない。今もなお枯葉剤の後遺症に苦しむベトナム人は四百万人を越えるというニャーさんの言葉に声も出ない。ベトナムの市街をバイクで走り回る活気に満ちた表舞台の裏に苦しみと悲しみを抱え込んだ何百万のひとたちが潜んでいる。ベトナム戦争は未だ終わってはいないのだ。眼を覆いたくなる写真を前に、わたしはあらためて人間とは何かを思い知らされた。虐殺される者も人間であり、虐殺する者もまた人間である。人間の悲惨な生の現場を直視して、やはり〈神〉の問題を問わずにはおれない。