小林リズムの紙のむだづかい(連載122)

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紙のむだづかい(連載122)
小林リズム

無人島で出会った運命のふたり】
 

 生まれてから今までずっと、運命の出会いというものに憧れて、求めてここまでやってきた気がするのだけど、なかなか出くわさなくてやきもきしている。
 学校に遅刻しそうな朝に食パンをくわえて走っていたら、同じく通勤予定のサラリーマンとすれ違いざまにぶつかってバーン。「や、やだ、ごめんなさい」「いえ、こちらこそ。あぁ、パンがだめになっちゃったね」「わ、大丈夫です」「よかったら改めてこれから朝食でもどうですか」…という展開とか。
 友達が住む高級マンションに向かっているときに、突然エレベーターが止まって、一緒に乗り合わせていた人と過ごすことになってドキドキ。「止まっちゃいましたね」「何かあったんでしょうか」「わたしこわいです」「大丈夫ですよ」みたいなピンチを乗り越えるとか。
 とにもかくにも、そんな夢みたいなことが起こるはずもなく、起こったとしても現実はもっとややこしくって、パンがきっかけで出会うふたりはきっと学校も会社も遅刻しないようにスムーズに対処するし、止まったエレベーターはすぐに連絡がまわって係り員の人が治してくれる。運命より現実のほうが、よっぽど濃くって強い。

 さて、この間読者の方に「無人島に流れ着いた見知らぬ男女ふたりの共同生活についてネタにしてほしい」と言ってもらったのだった。危機的状況をふたりで懸命に乗り越えて、いっしょに生きようと誓い合う、夜の星空を眺めながら海を前に結ばれるふたり…。と、まあ、こんなふうに一見、素敵な運命!と思える設定でも、現実的に起こった場合を想像すると悲惨で涙が出てくる。

 まず、状況からして女性はスッピンで過ごさなければならないのは当たり前だし、髪の毛がボサボサのギトギトになっても気にしてなんていられない。日焼け止めもないから肌もガンガンと焼けて黒くなり、皮もむけてくるかもしれない。だからといって
「わたし、肌が弱くて…とても痛いわ」
と潤んだ瞳で漂流した彼を見つめても、彼はそこらへんで排泄を済ませたあとで海でお尻でも洗っているだろう。女性はセンシティブだからきっと簡単に排泄できない、緊張して便秘にもなると思う。と、ワキ毛を筆頭に生えてくる体毛たち。服の予備だって持ち合わせていないので、破れたり匂ったりしていると思う。
 何より問題なのは生理がきてしまったとき。股からあふれでてくる血は何で食い止めるのか。葉っぱで包むとか木になすりつけるとか、きっとそういう野蛮な応急処置しかできない。海で股を一心不乱に洗う彼女を前に、彼は何を思うのだろう。
 肌がガビガビになり、髪も汚く、便秘で下っ腹が膨張してワキ毛もスネ毛もぼうぼうの女に
「わたしにはあなたしかいないの。愛してるわ…」
と言われて受け入れられるだろうか。無人島じゃなかったら拷問だ。こんな過酷な状況で愛が生まれるとすれば、それはきっと真実の愛だ。人類愛に近い。

 …それなら運命の出会いじゃなくっていいやと思うのだった。友達の紹介とか、同級生とか、そういう無難なやつでいいや。

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