モーパッサン『ベラミ』を読む(連載53) ──『罪と罰』と関連づけながら── 清水 正

 

清水正の著作、レポートなどの問い合わせ、「Д文学通信」掲載記事・論文に関する感想などあればわたし宛のメール shimizumasashi20@gmail.com にお送りください。

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。

sites.google.com

 

お勧め動画・ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk&t=187s

清水正の著作、レポートなどの問い合わせ、「Д文学通信」掲載記事・論文に関する感想などあればわたし宛のメール shimizumasashi20@gmail.com にお送りください。

清水正の著作購読希望者は下記をクリックしてください。

https://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208

                清水正・画

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。

有即無 無即有 有無即空 空即空 空空空 正空 (清水空雲)

モーパッサン『ベラミ』を読む(連載53)

──『罪と罰』と関連づけながら──

清水 正

 ヴァルテール社長はジョルジュに向かって「アルジェリアをご存じですか、君は?」と訊く。ジョルジュは「知っております。二年と四カ月いたわけですから。三つの州に全部滞在しました」と答える。次いで作者はジョルジュの話を次のようにまとめる「デュロワはムザム国を二度訪れたことがあった。そこで、彼はこの奇妙な国の風習を語った。ここでは水の数滴が金と同じ値を持ち、住民の一人一人が公役に服する義務を持ち、商業道徳は文明国民に見るよりもはるかに発達している。/ぶどう酒の働きと、人に気に入られたい気持とに駆られて、彼は一種の駄法螺的雄弁をふるって話をした。隊での語り草や、アラビアでの生活の変わった点や、討伐行の冒険やらを話題にした。/こうした黄色い裸の地方、ものみなを滅ぼしつくさねばやまぬ太陽の炎の下で果てしなく荒廃しているこれらの地方を言い現わすのに、いくつかの色彩に富んだ言葉をみつけ出したくらいだった」(上巻・47~48)と。

   このジョルジュの話はパーティに集まった婦人たち、特に社長夫人の興味と関心を呼び起こし、フォレスチエの口利きもあって直に社長の口から〈アルジェリアに関するちょっとした随筆風の続きもの〉の注文を受けることになる。すぐに社長夫人が〈アフリカ猟兵の思い出〉というタイトルまで提示することになる。

 ジョルジュはあっという間にチャンスを掴むことになるが、その第一の要因は美貌というよりは、彼の〈話〉に拠ったことだろう。しかし、その肝心の〈話〉を読者は直接聞くことができなかった。ジョルジュは〈ラ・ヴィ・フランセーズ〉に記事を書くことを依頼されるが、今まで文章を書いたことがない者が、一日や二日で記事をまとめることなど不可能である。しかも連載ものである。ジョルジュは身の程知らずで原稿を引き受けたが、結局自分の力で責任を果たすことができない。フォレスチエは自分の妻マドレーヌに助けてもらうように配慮する。この設定も納得のいくものではない。フォレスチエが、なぜ、美貌なだけの、そのほかの才能といったら何もないようなジョルジュの世話をやきたがるのか。ジョルジュの話をもとに、マドレーヌが実際に記事を書くようなことになれば、フォレスチエ自身の秘密が知れると共に、ジョルジュとマドレーヌの関係が親密度を増すのは明らかである。こんな危険を犯してまで、フォレスチエがジョルジュを自分の配下に置きたかったその理由が希薄なのである。気心の知れた信頼できる腹心の部下としてジョルジュを考えていたとすれば、それはフォレスチエがいかに間抜けな男であったかを照明するに過ぎない。だれが考えても、新聞記者に相応しい知見も能力もない男を会った翌日のパーティに招待したり、その場で直に社長に推薦するなどあり得ないことだ。

 ここでもう一度、マドレーヌの発した言葉を想起してみようではないか。彼女は恋愛は〈一種の食欲〉みたいなものだと思われているが、彼女にとっては〈魂の交歓〉であると言い切っている。さて、この言葉を聞いているのは〈魂〉などとは縁のないジョルジュであったことを忘れてはならないだろう。マドレーヌは〈精神〉を強調し、ジョルジュに向かって「私は、決して、決してあなたの情婦にはなりませんよ」と念を押している。マドレーヌのこういった言葉をいったいどう受け止めたらいいのだろうか。マドレーヌはすでにジョルジュという色男の内実を見破っていることは確かだが、それならこの情欲の塊のような男と〈仲のいいお友だち〉として、精神上のつきあいなどできないことも分かっていただろう。ジョルジュは〈下心〉満載の色男で、精神的な含蓄のない薄っぺらな野心家である。要するにマドレーヌはすべて分かった上で、ジョルジュと肉体関係を結ぶ仲になったというわけだ。

    恋愛感情や色事にもっともらしい理屈をこね回しても詮方無い。フォレスチエの妻マドレーヌは〈魂の交歓〉など誰よりもできない色男ジョルジュの誘惑に墜ちたというわけだが、これは謂わば計算ずくの堕落であって、見方を変えればマドレーヌこそがジョルジュを巧妙な手口で落としたということになる。マドレーヌはフォレスチエの死後、ジョルジュと結婚するが、もとより貞操を守る気などさらさらない。この女にはどんな男にも支配されない自立的精神が宿っており、新しく夫となったジョルジュに対しても自由の立場を崩すことはなかった。マドレーヌは口では〈魂の交歓〉を掲げながら、現実の世界にあってはせっせと〈肉の交歓〉に励んでいた。マドレーヌとラローシュ-マチゥの仲を疑ったジョルジュは、ついに彼らの不倫の現場に乗り込み、彼らの犯した罪を合法的に断罪する。作者は不倫の生々しい現場を外側から取材するが、性的現場そのものにカメラを向けることはないし、彼らの内的世界に照明を当てることもしない。いったいマドレーヌの言う〈魂の交歓〉はどこにいったら見られるのだろうか。〈魂〉や〈精神〉は言葉だけが提示され、その内実にはまったく触れないというのは、『ベラミ』の世界においてはすでにこれらは墓場に葬られてしまっていたことを意味するのであろうか。

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。

www.youtube.com



大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。 

エデンの南 清水正コーナー

plaza.rakuten.co.jp

動画「清水正チャンネル」https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B8%85%E6%B0%B4%E6%AD%A3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB

お勧め動画・ドストエフスキー罪と罰』における死と復活のドラマ https://www.youtube.com/watch?v=MlzGm9Ikmzk&t=187s

清水正の著作購読希望者は下記をクリックしてください。

https://auctions.yahoo.co.jp/seller/msxyh0208

お勧め動画池田大作氏の「人間革命」をとりあげ、ドストエフスキーの文学、ニーチェ永劫回帰アポロンディオニュソスベルグソンの時間論などを踏まえながら

人間のあるべき姿を検証する。人道主義ヒューマニズム)と宗教の問題。対話によって世界平和の実現とその維持は可能なのか。人道主義一神教的絶対主義は握手することが可能なのか。三回に分けて発信していますがぜひ最後までご覧ください。

www.youtube.com

 

www.youtube.com

www.youtube.com

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。

清水正研究」No.1が坂下ゼミから刊行されましたので紹介します。

令和三年度「文芸研究Ⅱ」坂下将人ゼミ

発行日 2021年12月3日

発行人 坂下将人  編集人 田嶋俊慶

発行所 日本大学芸術学部文芸学科 〒176-8525 東京都練馬区旭丘2-42-1

f:id:shimizumasashi:20220130001701j:plain

表紙

f:id:shimizumasashi:20220130001732j:plain

目次

f:id:shimizumasashi:20220130001846j:plain

f:id:shimizumasashi:20220130001927j:plain

 

 

大学教育人気ブログランキングに参加しています。応援してくださる方は押してください。よろしくお願いします。